『医療は国民のために』269 あはき療養費への受領委任導入でなぜ代理受領が認められなくなるのか分からない
2019.04.10
1094号(2019年4月10日号)、医療は国民のために、
今年からスタートした「あはき療養費の受領委任」は“制度”として導入された。私が厚労省在職中、国会想定問答で「受領委任制度」と書いたら、上司から「あれは制度ではない。受領委任の取り扱いだ」と叱られたことを思い出し、何とも滑稽だ。
そもそも受領委任は、法令としては民法の委任によるものと解される。よって、療養費の帰属主体である被保険者等と受任者との問題である。しかし、保険者関係者と話すと、「代理受領は受領委任より劣ったものであり、受領委任導入で代理受領が廃止となるのは当然だろう」と言われる。また、厚労省が健保組合に宛てた平成30年8月14日付事務連絡では、あはき受領委任への参加が保険者の裁量で可能となったことから、今後の支払い方法を「償還払い」もしくは「受領委任制度に基づく支払い」の2つとなると示し、「代理受領」は今後認められないとしている。つまり、現在、代理受領に基づく支払いを認めている健保組合に対し、その廃止日の議決を求めているのだ。ただ、民法上の法令的な立て付けを鑑みて、これが果たして正しいのかどうか疑問だ。償還払いへ移行もせず受領委任制度も実施しないこと、すなわち、代理受領のままでいることがどうしてダメなのかが分からない。前述の事務連絡によれば、「受領委任制度を導入する健康保険組合においては、実施時期前までの間は従前の支払い方法によるものであること」との記載もある。「永遠に現行(代理受領)のままでよろしい」とも読めなくもないだろうか。
私は代理受領というものを民法の委任行為が具現化したものだと考えているので、受領委任が導入されても、要件を満たせば拒否できないものと思っている。この場合の要件とは、「療養費の受給権が被保険者等に発生していること」だ。さらに言えば、被保険者が施術費用の全額を支払っているというのが受給権発生の要件といえる。療養費支給申請書の受取代理人欄について、民法の規定に基づき、委任者の被保険者等が施術者に対して施術料金を支払った上で、当該施術に係る療養費の受け取りを家族等に委任することは可能である。もちろん施術者に委任することもでき、代理受領を認めないとする事務取扱は否定されるべきといえる。従来の代理受領は、立て付けとして「当事者間(受療者と施術者)の契約」との整理であったが、これがそもそもおかしいのである。繰り返すが、療養費は施術費用の「全額」を支払って、初めて受給権が発生する。つまり、施術費用が全額で1,000円の場合、一部負担金として300円を支払うが、これが全額とみなされるから療養費は300円の7割相当額の210円である。しかし、代理受領の支払いでは700円を保険者が支払っているのが現状だ。費用の全額を支払っていないにもかかわらず、〝支払ったとみなして〟契約による支払いを行うのが受領委任の取り扱いであるならば、そもそも費用の全額を支払った上で被保険者が療養費の受け取りを誰に委任するのかは委任者の勝手である。
代理受領を否定されるいわれはないのだ。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。