『医心方』、ユネスコ「世界の記憶」登録向け議連発足
2018.11.10
―日本最古の医学書、鍼灸の記述も―
鍼博士であった丹波康頼が平安時代に撰集・編纂し、日本で現存する最古の医書とされている国宝『医心方』を、ユネスコ「世界の記憶」に登録しようとする動きが本格化していることが分かった。自民党が10月16日、「世界の記憶」登録を推進する議員連盟の設立総会を衆議院議員会館で開き、申請等に向けた話し合いや意見交換を行ったという。
鍼博士・丹波康頼が撰集・編纂
『医心方』は撰者の丹波康頼により984(永観2)年に宮中に献上された医書。全30巻からなり、宋以前の医書・仙書・仏典・本草書など引用文献は200余といわれる。東洋の先哲たちの医の倫理をはじめ、風土・環境による病理、あらゆる傷病の治療法、薬学の基礎などが載る中、「巻二」では鍼灸療法(孔穴名・壮数・禁鍼・禁灸のツボや主治の対象など)についての記述がある。全て漢文で書かれているが、現在は研究も進み、槇佐知子氏訳の現代語訳版も出版されている(全巻初訳は2012年に完結)。
議連設立に先立ち、2年前に「国宝・医心方のユネスコ『世界の記憶』登録を推進する会」(横倉義武会長)が結成され、各方面に働きかけを行ってきた。当日の議連総会には、議連の鴨下一郎会長や事務局長・羽生田俊氏ら自民党議員のほか、「推進する会」のメンバーや株式会社ツムラの幹部などの関係者が出席。槇氏とともに、オブザーバーとして参加した櫻井瑶子氏(有限会社まなをかし代表取締役、鍼灸師)によると、総会に英国のオックスフォード大学教授のデニス・ノーブル氏が招かれ、海外の視点から医心方の文献的な価値や重要性についての講話も行われた。ノーブル氏からは「医心方には薬効植物の記述が多く、データの宝庫で、研究・治験等で莫大に費用がかかる現在の新薬開発に新たな方向性を提示する可能性を秘めており、そういう点で記憶遺産に値する」との話があり、また教授に随行し来日していたフランスのメディアも取材に入っていたという。申請に向けては、政治的な事情等も絡み、現在ユネスコが新規申請を受け付けておらず、申請の解禁は早くても2020年4月になる見通しで、それまでに啓蒙活動を含めた準備を進めていく方針だ。
鍼灸業界も声を上げ、行動を
今回の設立総会には、鍼灸の業団関係者の姿はなかったという。議連と「推進する会」は今後、幅広い分野から協力団体や会員を募っていく考えで、櫻井氏は「鍼灸業界でも医心方のユネスコ登録を目指す会を立ち上げるなどし、医師会や丹波康頼の出自である京都府福知山市といった地域団体などとお互い連携を取りながら、活動に大きな広がりを作っていってほしい」と話す。