連載『汗とウンコとオシッコと…』151 時代だな……
2017.02.10
大陸にある高気圧の南下に伴い、低気圧が押し下げられたことでカムチャツカ半島にある寒冷渦に低気圧が引き込まれて、春の嵐が吹き荒れた。しかも、これは3月のお彼岸前後ではなく、2月の末に起こったのだ。あまり記憶にないことだ。つまり、春の到来が駆け足でやってきている。白梅も3月を待たずに咲き誇り、身体の状態も春先の病が発現している。アレルギー、仙腸関節痛、傾眠、めまい、頭痛、腹痛などである。これらは、通常春に旺気すべき肝が正常に働いていれば発病しないが、現代人はナイトレスな生活に、食べ物も季節感がなく、一年を通しての時計が乱れてしまい、さまざまな病の発現を見ることになる。
「先生、この子、急激な腹痛で、昨日に救急車で運ばれて……。でも、CTにも異常が無いし、様子を見ましょうって言われて、帰されたんですよ」
と、この春に中学生になる男子を連れて母親が来院した。彼は小学校低学年の頃、腸閉塞で手術をした経験がある。中学受験に無事成功し、今は卒業式まで気ままな生活を送っていたとか。なんでも、夕食後しばらくして、強烈な水様便があって、しばらくしてから腹痛が生じたということだ。
病院でドクターが「どこが痛いの?」と問えば、胃部を中心に、絞られるように痛み、恥骨の周囲まで引きつると訴える。虫垂炎を初めに疑われたそうだが、血液検査の白血球数値も虫垂炎があるほどの上昇は無く、CTもガスが少したまるだけ。糞塊も痛みを出すようなものではなく、腸の蠕動運動時における痛みの可能性が高いが、原因は不明ということらしい。結局、点滴をされたものの、余計に痛み出し、病院から逃げるように帰ってきたという。
「お前さん、体重がどれくらいか教えてくれ。それと、受験が終わって夜更かしばっかりしてなかったか?」
と、横転先生が男子に聞く。
「体重は45キロ……。夜は……ネットの対戦ゲームにはまってんねん。これが面白くて……」
延々ゲームの話をし始めた。それに参加して笑っているのは、やはり川端だ。サブカルチャー大好きだからな……。
「腹痛の原因はね、これ、腹膜が攣ってるだけや」
横転先生は脉と腹を確認すると、母親にそう告げた。
「えっ? 腹膜?」
「ああ、そうや。寝不足と眼精疲労でな。自律神経、特に体内時計が乱れたときに出てくる、一つの現れや。けど、腹痛に出ただけまだマシや。これが脳に影響してしまうと鬱っぽくなって、インターネット依存症になったりもする。実際、朝が起きられへんようになって、夕方までぐだっとして、夜から元気がええやろ……まぁ、腹痛は取るけど、ネットの制御は家庭でやってくれ。そこまではわしも管理できへん」
と言って、左足とお腹に灸をして、背中で何やら鍼をして帰したのだった。肝の機能低下と横転先生が説明していた。
「現代病やな、あれも……」
「こだわりの強い、疑似川端病ってとこか」
あきれたような横転先生のぼやきに、つぶやく森畑だった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。




