『医療は国民のために』252 医師会の「柔整師の超音波検査に懸念」に柔整業界は対抗しないのか?
2018.07.25
6月24日に開かれた日本医師会(日医)の臨時代議員会で、柔整師が超音波検査を行っている実態に関する質疑が行われたようだ。出席代議員から日医の取るべき対策を尋ねたところ、日医副会長は、
①内視鏡検査をして結果を説明しなければならない、という話と同様に違法行為なのでしてはならない
②厚労省の柔整師学校養成施設カリキュラム等改善検討会でも、「施術に関わる判断の参考にとどめ、診断につながってはならない」と、厳しく注意喚起し、誤った判断による危険性を指摘している
と説明した。しかし、質問に立った代議員は「日本語として理解できない“通知”は変更するべきだ」と、強く迫ったというのである。
ここで言われている「通知」とは、平成15年9月9日付の厚労省医政局医事課長通知だ。当該通知は「施術所における柔道整復師による超音波画像診断装置の使用について(回答)」と題するもので、内容は次の通りだ。
「検査自体に人体に対する危険性がなくて、柔整師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については、柔整業務の中で行われていることもあり、柔整師が施術所で実施したとしても法令に反するものではないとしているが、診療の補助として超音波検査を行うことは、柔整業務の範囲を超えるもの」
このワンフレーズの中に、相容れない二つのことが書かれているのが分かる。前半では柔整師の超音波検査を肯定し、後半ではそれを否定していることが読み取れる。この通知を受け、柔整師側は「厚労省が、柔整師が超音波装置を使えることを認めてくれた。お墨付きを得た」と捉え、反対に整形外科医側は「超音波装置は使えないということだ」と解釈した。私が思うに、超音波装置の使用を認めてもらいたい柔整師側と、あくまでも柔整師に超音波装置を使わせたくない整形外科医側がともに同じ自民党を頼った結果、「何が言いたいのかよく分からない通知」になってしまったといえる。つまり、認めることも禁止することも回避したいお役所独自の発想で工夫された名文(迷文?)であると推察する。
とはいえ、この通知発出を契機に、柔整師向けの超音波装置の販売を手掛ける業者の活動が加速。柔整師主体の超音波に関する学会も立ち上がった上、超音波装置の運用マニュアルを定め施術に使用する環境も広まり、既に数千を超える整骨院で使われているとの実態にあるようだ。ただ、柔整師が超音波検査を公然と行うために、「学校で教えている」ことも今後重要になる。養成施設のカリキュラムにきちんと載せ、実際に超音波装置が施設内に設置されるなど、既成事実を積み上げなければ、医師会や行政側と交渉しても前に進まないだろう。日医副会長は、先月の代議員会で「解釈が十分にできない通知は変えるべきだ」と明快に発言しており、「柔整師の超音波使用」に圧力をかけてくるのは必至だ。
これに対抗し、柔整業界も「超音波使用の容認」の姿勢や要請活動をもっと明確に示していかなければならないのではあるまいか。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。