連載『織田聡の日本型統合医療“考”』108 プロフェッショナルとプロモーション(その1)
2019.01.25
年明け早々、100万円を100名に、総計1億円を個人的にプレゼントする某有名経営者の行動が話題となりました。真面目に働いて得た報酬は、それがどれだけ高額であっても評価されます。医療はどうでしょう。医師はもともと報酬が高い方ですが、医療機関は“非営利”であることが求められています。知っていましたか? 昔は株式会社が病院を開設することも可能でしたが、現在は実質不可能となっています。
皆保険でほぼ全ての国民が公的保険に加入している日本の医療制度において、医療に関する利益の多くは、保険料と社会保障費になります。別の言い方をすると、税金が原資となり、稼いでいることになります。医療がプロモーションを制限されているのは、そもそも「稼ぐ必要が無いから」。その理由は、国のお金や健康な人の保険料を元手にたくさん稼ぐのはけしからんという考えと、「命にかかわる医療」で稼ぐのは倫理的にどうなのかという考え方が大きく影響しているといえます。建築などの領域でも、一部の人しか使わない橋の建設などで、公的資金(税金)で稼ぐというのはけしからんという国民感情は以前からありますね。
さて、昔は医療機関が広告なんかしなくても経営は成立していたそうです。「集患」という言葉も、昔はなかったと聞きます。病院が破綻し、クリニックが破産する時代になり、どうやって医療機関が経営を安定させるのかということが大きな課題となってきました。計画経済の限界です。そうなると、医療機関もプロモーションが必要になってくるわけですが、広告規制があり十分にできません。
ここで、下記に一つのマップを提示します。
Aは自由診療で、そのエビデンスは不十分なことが多いけれども、消費者本人が価格を定かに認識している領域です。ここにはサプリメントやリラクゼーション業が入るでしょう。Bも自費診療で、価格の認識ははっきりしているけれども、エビデンスが多い領域です。自費で行う人間ドックなどでしょう。効果が不確かなものに保険診療が適用されることは少ないので、基本的にCの領域に該当するものはありません。Cのような、効果が不確かで価格も定かでないものを売るのは宗教か詐欺だと、誰かが言っていました。Dはエビデンスが十分なことが多いのですが、保険診療で、消費者本人の価格の認識が甘い領域です。通常の医療はここに入りますが、患者さんはいくらかかっているのか、あまり意識することなく医療サービスを受けることができます。今はDの領域である医療が、移り変わっていくことが予想されます。どちらに向かうと思いますか?(次回につづく)
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。




