連載『中国医学情報』165 谷田伸治
2018.12.10
☆高脂血症を合併した重度肥満症に対する鍼灸治療の効果と性別
南京中医薬大学・黄迪迪らは、脂質異常症(高脂血症)を合併した重度肥満症の鍼灸治療を報告(中国鍼灸、18年07期)。
対象=同大国医堂ダイエット科の264例(男106例・女158例)、平均年齢(41±6)歳。肥満症罹患期間は、男が平均(18.0±14.3)年、女が平均(16.4±13.6)年。
中医分型基準=6型に分類し治療。
①胃腸腑熱型―食欲比較的良好・燥熱嫌う・冷飲料好む・汗かき・大便乾燥など。
②脾虚湿阻型―食欲不良・体が重だるい・尿少ない・下痢便・舌辺に歯痕など。
③痰湿内阻型―咳痰多い・食欲減少・吐き気・頭が重い・体が重だるいなど。
④肝鬱脾虚型―いつも胸苦しく息切れ・憂鬱や煩躁を伴うなど。
⑤脾腎陽虚型―いつも四肢無力で冷えを感じる・腰がだるく冷える・大便少・頻尿など。
⑥陰虚夾瘀型―毎日決まった時間に発熱・寝汗・胸中や掌や足底が火照る・頬が赤い・口乾・尿少なく黄色・大便乾燥など。
治療法=鍼灸治療のみを2日1回、計3カ月。この間、他の治療法(薬物・手術・運動・食事療法)はしない。
<取穴>①―内庭・曲池・小海・二間・上巨虚・前谷・大腸兪・中脘・支溝。②―天枢・陰陵泉・足三里・豊隆・三陰交・太白・中脘・気海。③―合谷・太淵・中脘・天枢・豊隆・足三里・太白・太渓・脾兪。④―膈兪・期門・章門・曲池・足三里・豊隆・三陰交・太衝・太白。⑤―膈兪・腎兪・足三里・陰陵泉・豊隆・飛揚・太白・太渓・中脘・中極・気海・関元。⑥―曲池・合谷・太淵・神門・血海・陰陵泉・豊隆・足三里・三陰交。以上は常軌刺鍼。さらに、②には太白・陰陵泉、③には豊隆、⑤には気海・足三里に、灸頭鍼追加。
<操作>0.30×40/50/60mmの毫鍼で刺鍼、得気後に置鍼30分(10分ごとに刺激1回)。灸頭鍼は、直径2cm・長さ3cmの艾で2壮。
結果=<治療前→後の平均値>肥満度―体重(kg):男107.00±15.26→96.72±17.30/女87.95±11.65→81.04±13.04。血清脂質値(mg/dLに換算)―LDL-C:男220.20±27.86→153.25±33.67/女210.14±30.19→150.16±33.28、HDL-C:男27.09±6.58→44.12±8.13/女28.64±12.77→44.89±12.00、TG:男170.67±20.90→99.46±28.25/女167.96±19.35→106.04±30.96。
<総合評価>男:著効68例・有効29例・無効9例・総有効率91.5%/女:著効83例・有効52例・無効23例・総有効率85.4%。
☆顔面麻痺後の流涙症に大小骨空穴への灸
山東中医薬大学・郭婷らは、顔面神経麻痺後の流涙症患者への灸治療例を報告(中国鍼灸、18年07期)。
女性・67歳。
主訴=顔面麻痺後の流涙が3カ月余り、重症化し5日。
現病歴=3カ月前に風で冷えた後に、左眼が閉じ涙嚢炎で風を受けると涙があふれ、左側の額のしわ・鼻唇溝が浅くなり、口角が右にゆがむと共に耳の後ろが痛む。同大付属病院で末梢性顔面神経麻痺と診断され、現代医薬などの治療で改善したが、流涙症が残ったため鍼灸科を受診。
現症=額のしわと鼻唇溝は基本的に左右対称、微笑時に口角がやや右寄り、左眼部の筋肉に異常感、流涙は冷たい風で悪化、息切れし気力がない、膝腰がだるく力がない、睡眠不足で夢多い、眼瞼と内眼角に発赤、左右眼球結膜に軽度充血など。
診断=西医:流涙症、中医:顔面麻痺後遺流涙症(肝腎両虚型)。
治療法=①選穴―古医書(『鍼灸集成』など)で本症に有効とする奇穴の大骨空穴(拇指背側IP関節横紋中点)・小骨空穴(小指背側PIP関節横紋中点)。②操作―両手を机の上に置き、ショウガ汁をツボに塗り、麦粒大の艾を置き線香で点火、2/3燃えるか患者が灼熱感や耐えられなく感じたら艾を取る。毎日1回、毎穴各9壮、治療時間約25分間、連続3日後は2日1回治療。
治療経過=治療期間中は他の治療なし。第1回治療後、患者は肘まで熱感あり。第3回後、肩まで熱感。第5回後、頭頂部少し発汗。第8回後、眼部筋肉が前より緩むのを自覚、その日の午後症状好転。続けて治療すると、毎回少しの発汗を自覚。第13回後、流涙症状や眼部筋肉の緊張感がなくなったと言う。効果を強化するためその後2回治療し終了。3カ月後も再発なし。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。