第46回日本伝統鍼灸学会学術大会 「鍼の聖地」大阪・茨木で
2019.01.10
『ハラノムシ』と『妖怪』テーマの講演も
第46回日本伝統鍼灸学会学術大会が、昨年11月24日、25日、大阪府茨木市内で開催された。同市は15世紀頃に鍼の要所であったとされ、昨年編纂450周年を迎えた、日本鍼灸のルーツともいわれる書『針聞書』の編者・茨木元行が居住した地でもある。「鍼の聖地茨木へ」といったコピーの下で大会が開かれた立命館大学大阪いばらきキャンパスでは、『針聞書』に描かれた、体内に潜み様々な病を引き起こすという想像上の「ハラノムシ」の絵図を用いた、玉入れやスタンプ、記念撮影といったコーナーも用意され、子ども連れの来場者の姿も目立った。
特別講演『日本の妖怪文化―「針聞書」の思想的風土』では、民俗学分野において妖怪学研究の第一人者として知られる小松和彦氏(国際日本文化研究センター所長)が登壇。妖怪と「ハラノムシ」との共通点について考察した。妖怪とは、自然災害などの現象を見た人々が、「土砂崩れは水神である蛇が移動することによって起きる」など背景にある不思議な存在を想像、さらに絵や逸話など具体的な姿を造形化するという3段階のプロセスで生み出されること、古代には自然現象の造形化が中心だったが、時代が進むにしたがって器物、幽霊といったものが増えていったことなどを解説。ハラノムシも、特異な点はあるものの、恐らく同様に病気という現象を基に想像を造形化した存在であると考えられると推察。よく似た存在として、共に蛇の胴体に女性の頭部を持つ姿で描かれたハラノムシ「小姓」と、江戸時代後期の絵巻物『化物尽絵巻』に登場する妖怪「さら蛇」を挙げたほか、「出産の際に母体から飛び出し、家の中に隠れて災いをもたらす」とされる「血塊」などはハラノムシとしても妖怪としても言い伝えられており、互いの世界は関わり合っているとした。
このほか、特別講演として仁木宏氏(大阪市立大学大学院教授)の『戦国時代の茨木氏と茨木城―「針聞書」の歴史的背景』ほか4題、実技セッション・講演5題、シンポジウム3題、国際部セミナー『世界の鍼灸事情』などが開催。昨年に引き続き第2回となった日中学術交流会では、日本側『日本の浅鍼は何故効果があるのか』(戸ヶ崎正男氏・日本伝統鍼灸学会副会長)、中国側『入院患者への皮内針治療の現状』(張飛蘭氏・浙江省)とそれぞれ講演したほか、日本側は小児鍼、逆子治療、中国側は小児顔面麻痺や疼痛における鍼灸と円皮鍼の結合治療をテーマに実技セッションが行われた。