『医療は国民のために』278 「チーム医療」に加わるか否かが今後生き残りのカギとなる
2019.09.10
「外科医・整形外科医から、うとまれる柔整師」「内科医から、評価されないあはき師」という関係性を依然引きずっているこの業界において、近年、療養費も請求しづらい条件・要件が大量に付されてしまった。ただ、このまま放置していても状況は上向かず、食べていけない。さて、どうするかであろう。
今後、柔整師とあはき師の治療の主体は、慢性の運動器疾患として疼痛の除痛・鎮痛をはじめとする対応となるはずだ。そのためのカギとなるのは、「医療本体との合同」であり、「チーム医療への参入」である。例えば、「健康運動指導士」の認定資格を取るだけでも、運動器分野において医科との共通言語で議論するための力が付くだろう。そもそも、柔整師が「もみほぐし」などの癒しに進んでも、先はない。だからといって、骨折・脱臼に特化した整復技能を「匠の技」などと喧伝しても、既に骨折・脱臼の多くは保険医療機関が担当し、その状況は変えられない。その公算は極めて低いだろう。だからこそ、チーム医療であり、その一端を担えるだけの技能が求められる。当然、「治療方策に係る説明能力(交渉能力)」もそれら技能に含まれてくる。医療用語で医師やその他のパラメディカルスタッフとの連携が求められるということだ。
本来、柔整師とあはき師の治療行為、いわば、医療という範囲に包括される行為が保険医療機関で行われないのがおかしいのである。この際、保険を療養費のみの観点で捉えるのではなく、医科本体の診療報酬の中で、柔整師・あはき師の施術を保険点数で評価してもらうといった手立てを考えていくべきだ。つまり、医師を頂点としたピラミッドを構成するパラメディカルスタッフを目指すということである。医師の指導監督の下に行われる治療方策として、保険医療機関内に勤務する柔整師及びあはき師により施術されたら、診療報酬で明確に評価する――このような方向に大きく路線変更すべきではないのか。
平成30年度までに、適正化の名の下に実施されてしまった療養費抑制策はもう撤回できず、元には戻れない。療養費が右肩上がりで復活するなどは幻想であり、今後は自費取り扱いと、医科本体への食い込みを考えるのが当たり前といえる。業界には、柔整師とあはき師が病院・診療所等の保険医療機関で雇用される環境を作り出していくことがその役目であることを改めて示してもらいたい。従来通り、医師を頂点とする医療のパラメディカルスタッフにもなりたくないし、ならないと主張する斯界は、私には愚かに見える。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。