連載『織田聡の日本型統合医療“考”』109 プロフェッショナルとプロモーション(その2)
2019.02.10
まず前回掲載したマップに少し手を加えたものを上に示しました。縦軸に「価格」、横軸に「情報」を置き、上に行くほど「価格が需要に合う」市場経済の側面が強くなり、下に行くほど「価格が需要と合わない」計画経済の側面が強くなります。また、右に行くほど「情報が正確な」プロフェッショナルの側面が強くなり、左に行くほど「情報が不正確な」プロモーションの側面が強くなります。
Aは市場経済ですが、広告が誇張されたりするなど効果が不確かな領域です。医療においては、広告規制や薬機法によってAからBへシフトするように努めることを求められています。医療におけるBの領域は、エビデンスが確立しており、しかし自由診療で価格が市場原理で決められる領域です。ワクチンや人間ドックがこの範囲に入ります。Cの領域のように情報が不正確なのに、価格が需要に合わないというのは、詐欺か宗教しかありません。国が進める医療計画においてはありえない領域です。そして、今の日本の医療はDの領域であり、今後は他の領域にシフトしていくと前回説明しました。さてどちらに行くでしょうか、考えていきましょう。
Dの領域は計画経済の側面が大きいため、医師が「世のため、人のため」と公益性を大きく唱えてサービスを提供しても、実は価格は需要に合っていません。市場原理が働かないため、リソースが不足しても価格は一定。需要が拡大しても価格は一定。効率も悪いし、生産性も乏しい。
医療サービスが保険にカバーされている限り、利用者は本来の需要以上の需要を生み出します。例えば、ごく軽症でも救急車を呼んだり、過剰な医療を求めたりします。そして、医療サービス提供者側もその需要に利益が生まれるので応じてしまいます。市場経済であればサービス提供者側と受領者側が対峙して価格が決まりますが、医療ではサービス提供者側と受領者側が同じサイドにいて、そして受領者側は1?3割しか負担が無いため、双方が需要に見合わない価格でも消費に歯止めがかかりません。そして国民医療費は毎年43兆円を超え、国の大きな負担となっているのです。
訪問診療で一人の患者さんの周りに過剰なほど大勢の多職種医療人が集まってサービスを提供する地域包括ケアを、私は「劇場型」と呼んでいます。確かに目の前の患者さんに最大限のサービスを提供しようと努力することは「正義」です。しかし、隣近所ではじっとして声も上げられず、サービスが行き届いていない方がいる現状があります。このような歯止めがかからない消費、またリソースが不足する中、一部にサービスが集中してしまい適正に分配されないのもDの領域の大きな弊害です。
今後、医療はDからAやBへとシフトせざるを得なくなるでしょう。いわゆる保険診療から自費診療へのシフトが起きると思われます。既に鍼灸・柔整の業界では医療業界に先行してその傾向が強く見えてきました。歯科の業界も自費による診療の割合が拡大してきています。保険診療のクリニックも、少しずつAやBの領域の診療を始めています。レーザーシミ取りや点滴療法などがその一例です。
ある意味、過保護のDの領域で長年営業してきた人がAやBの領域に出ていくと、市場経済の荒波に沈んでしまうかもしれません。広告規制などのプロモーションが自由にできない環境もあります。このあたりのノウハウを少しずつ紹介していきたいと思っています。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。