厚労省『平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』から 鍼灸・柔整施術所、2千超の増加続く
2019.10.25
9月4日付で厚労省が発表。あん摩マッサージ指圧施術所は微減したが、あはき・柔整施術所全体の傾向としては増加が続いており、鍼灸・柔整施術所はいずれも前回調査(平成28年末)に引き続き2千超の増加。前回結果とその増減率(小数点以下2位を四捨五入)を併せて掲載する。
厚労省『平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』から 鍼灸・柔整施術所、2千超の増加続く
厚労省『平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』から 鍼灸・柔整施術所、2千超の増加続く
2019.10.25
9月4日付で厚労省が発表。あん摩マッサージ指圧施術所は微減したが、あはき・柔整施術所全体の傾向としては増加が続いており、鍼灸・柔整施術所はいずれも前回調査(平成28年末)に引き続き2千超の増加。前回結果とその増減率(小数点以下2位を四捨五入)を併せて掲載する。
Q&A『上田がお答えいたします』 どうしてカイロなど柔整に関係のない講習を行うのか?
Q&A『上田がお答えいたします』 どうしてカイロなど柔整に関係のない講習を行うのか?
2019.10.25
Q.
施術者団体では、カイロプラクティックやアロマテラピー、リフレクソロジーなど、柔整施術に関係の無い講習ばかりやっていますよね。そもそも、「専用の施術室」の問題で柔整施術しか行ってはいけないのではありませんか。
A.
ご指摘はごもっとも。では、なぜこのようなていたらくになってしまうのでしょうか。一つには、これらの講習会の開催の要望が実際に多いからだということです。急性の外傷患者の来院数が減っているため、柔整施術以外のメニューで顧客を獲得したいからでしょう。また、治療技術など持ち合わせていない者にとっては、客寄せのために必要だということです。そもそも、誰が柔整施術に係る講習をやってくれるというのでしょう。「門外不出」の伝来の手技をたかだか数万円の講師料で教えてくれる人がいるでしょうか。更に言えば、徒弟制度が崩壊している現代において、伝承技能としての手技療法が本当に残っているのでしょうか。
柔道整復師法では「専用の施術室」が規定されていますので、法令上、柔整と鍼灸の治療室でさえ別にしなければなりません(施術者が1人のみで両方の免許を取得している1人特例の場合を除く)。法から逸脱したことを排除しようとすれば、施術室でできるのは柔整施術のみになります。ところが、多くの施術者が自費メニューとして柔整施術に関係の無い行為を提供しているのが実態です。団体が率先して規制したならば、会員はこぞって退会していくでしょう。これは違法広告の問題にも共通することです。厚労省の告示上では、骨折・脱臼・打撲・捻挫・各種保険取扱いとの表示も認められません。しかし、法令から逸脱した広告を団体が正そうとすれば、当然ながらそれを嫌がる会員の多くが退会していくでしょう。会員の大幅な退会はすなわち団体の経営困難に直結します。本来であれば、たとえ将来的に団体が解散することになろうとも真っ当なことを追求していくのが正当な方策であるというのは正論ではありますが、それを望まない会員の退会にどこまで耐えられるかについては、会員の動向によって相違していきます。
このような理由から、当面、カイロなどの講習会は継続されるでしょうし、専用の施術室の取り扱いについても団体としての考えをはっきりさせるのは困難でしょう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『食養生の物語』77 そばのオキテ
連載『食養生の物語』77 そばのオキテ
2019.10.25
新そばの季節ですね。そばの収穫は10月から11月なので、新そばは10月末頃から。旨味が強くコクがあり、香りや喉越しを楽しむために塩だけで食べることもあるほどです。一部には夏頃から出回る新そばがありますが、これは早い時期に種を蒔いて7月に収穫する「夏新」と呼ばれるものです。江戸時代には「夏そばは犬も食わぬ」と言われるほどマズかったようですが、保存技術の発達した現代では、夏そばの方がさっぱりとした味わいで好きという人も多いですね。ちなみに新そばと呼ばれるのはその年いっぱい。年越しそばが最後ということになります。
そばは寿司や天ぷらと並んで代表的な日本料理の一つ。香りを大事にする食べ物で、そのために音を立ててすすっても良い、世界でも珍しいマナーがあります。弥生時代にはもう食べられていたという説もあり、少なくとも奈良時代よりも前から食されていたことは間違いなさそうです。ただし、当初はそばの実を粒のまま粥として食べるもの。次第に、それを粉にしたものを水で練って蕎麦掻き、蕎麦焼きとして食べるようになっていき、麺状になったのは江戸時代の初期だそうです。蕎麦切りと呼ばれ、茹でたそばのぬめりを取って皿に盛り、つゆをつけて食べるのが一般的だったようです。その後、つゆを直接かける「ぶっかけそば」「かけそば」が流行ったことから、区別のため「もりそば」と呼ぶように。さらに、名店で竹ざるに盛ったそばに焼き海苔を散らし、つゆにわさびを入れた「ざるそば」が提供され繁盛したことから、現在のように広まっていったようです。そば粉のみを原料とするものを「十割そば」と言います。そばだけでは切れやすいので、つなぎとして蕎麦粉8・小麦粉2の割合で小麦粉を混ぜたことから「二八そば」と呼ぶようになりました。蕎麦粉の比率が高いほど高級品とされ、立ち食いそば屋などは「逆二八そば」と揶揄されることもあるとか。
栄養成分としてはポリフェノールの一種、ルチンがあり、抗酸化作用が強く、動脈硬化の予防や血圧を下げる効果があることが分かっています。ただ、ルチンは水溶性ビタミンで、茹でる際に出てしまいます。そばの茹で汁である蕎麦湯を締めにいただくのは理に適っているのです。このほか、良質なタンパク質の中でも成長ホルモンを合成するリジンが、植物性としては珍しいほど多く含まれており、ビタミンB?も豊富なため疲労回復効果が期待できます。
関西では「きつね」とは油揚げの乗ったうどん、「たぬき」は油揚げの乗ったそばのこと。一方、関東の「たぬき」は天かすを乗せた「たぬきそば」。衣(天ぷら)は見えるがタネ(具)はない「タネ抜き」がなまったとか、天ぷらに見せかける意味から化かす動物の狸と呼ばれたとか、由来は諸説あります。関西で天かすの乗ったそばは「ハイカラそば」、あるいは単に「天かすそば」。東西の違いが面白いですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『あはき師・絵本作家 かしはらたまみ やわらか東洋医学』12 「死ぬってどういうこと?」①
連載『あはき師・絵本作家 かしはらたまみ やわらか東洋医学』12 「死ぬってどういうこと?」①
2019.10.25
目を閉じたまま起きないおじいちゃんに、みんなが泣きながらさよならを言う中、「おじいちゃんどこへ行くの? なんで行かなあかんの?」と混乱する娘。絵本を作り始めたきっかけは、義父の死を子供に伝えるためでした。東洋医学の考え方では、死は今ある姿が終わるだけで何もなくなりません。世界から気をもらって生きてきたのを、返し、帰っていくのです。
【連載執筆者】
かしはらたまみ
あん摩マッサージ指圧師・鍼灸師
自身の子どもに東洋医学の概念を伝えるため「絵本」という表現を選択。色粘土を使った独自の手法で絵を描いている。これまでに『陰陽五行 まわるき』『おなかがいたくなるまえに』を自費出版し、ブログで『やわらか黄帝内経素問』も連載。絵本の購入はネット通販サイト・BASE「やわらか東洋医学」(https://touyouigaku.thebase.in/)から。
『ちょっと、おじゃまします』 ~外傷からエステまで幅広く~ 大阪府堺市<ことは鍼灸整骨院>
『ちょっと、おじゃまします』 ~外傷からエステまで幅広く~ 大阪府堺市<ことは鍼灸整骨院>
2019.10.25
外傷の治療から慢性疼痛の緩和、マッサージの往療、更には美容鍼、エステティックと多角的に展開していることは鍼灸整骨院。柔整師、あはき・柔整師、エステ専門の女性スタッフに加え、「女性に診てもらいたい」とのリクエストがあれば応援に駆けつけて来てくれる2名の女性有資格者と、多彩なメンバーで運営しています。彼らを束ねるのは院長で柔整師の阿部建太先生。ぎっくり腰の治療が得意で、松葉杖で来院した患者さんがスタスタと歩いて帰った、東京在住の友人に「交通費を出すから」と治療のために招かれた、といった経験もあるとか。
高校、大学から柔道に打ち込んできた阿部先生。柔整師にはお世話になっていたといい、その道に進もうとしたのですがご両親の反対で断念。その後10年間、刑務官として働きます。社会人になってからも続けていた柔道の引退を節目に、また「10年も勤め上げたのだからもういいだろう」との思いもあり、ご両親の許しを得て、諦め切れなかった夢へと再び向き合うことに。専門学校時代も含め、複数の整骨院での勤務経験を経て独立開業しました。修業時代、1日80~100人の患者さんが来る院ではひたすら手技の腕を磨いたといい、専門学校の付属整骨院では非常勤の教員らが入れ替わり立ち代わり指導してくれたのでバラエティー豊かに学べたとのこと。現在の治療方針は、個々の患者さんに合ったオーダーメード治療。幅広い資格・スキルを持つスタッフらとのチームワークを生かしています。
院自体はオールラウンドですが、柔整師として外傷を数多く扱う阿部先生。懇意にしている整形外科があり、骨折の応急処置をした患者さんを送って後療を引き受けることも少なくないといいます。自己研鑽のために、整形外科医や理学療法士の下に自ら足を運び、教えを乞うこともあるそうです。ボランティアで柔道の大会の救護にも携わっていて、「ついこの間も膝の脱臼を整復したばかりです」と語ってくれました。
阿部建太先生
平成28年関西医療学園専門学校柔道整復学科卒、同年柔整師免許取得。41歳
今日の一冊 男性も女性も知っておきたい 妊娠・出産のリテラシー
今日の一冊 男性も女性も知っておきたい 妊娠・出産のリテラシー
2019.10.25
男性も女性も知っておきたい 妊娠・出産のリテラシー
齊藤英和・杉森裕樹 編
大修館書店 1,870円
一般に、加齢に伴い男性も女性も妊孕性(妊娠させやすさ・しやすさ)が低下する。いわゆる、「精子の老化」や「卵子の老化」である。ところが、日本で不妊治療を受けている人々においては、こうした事実を知らないことが多いという。産婦人科医や少子化問題に詳しいジャーナリストらが、健康・安全な妊娠・出産に必要な科学的に正しい知識を分かりやすく解説。ステップ・ファミリーや同性カップルなど、「多数派でない」人々にもスポットを当て、社会的な側面からも子どもや家族を持つことについて考察する。
編集後記
編集後記
2019.10.25
▽今月、竹本直一IT政策担当大臣のホームページが『復旧』しました。実は9月の就任時点から「管理会社にロックされて」閲覧不可、更にYoutubeのお気に入り動画に不適切な動画が……とネット関連の失態が重なっていたのです。そんな方がなぜIT相に、というところでこの竹本氏、実は『日本の印章制度・文化を守る議員連盟』(はんこ議連)の会長。議連は昨年設立したばかりで、春には法人設立時の印鑑届け出義務をなくすデジタルファースト法案を見送りに追い込んでおり……あちらの業界団体は、よほど強い力をお持ちのようですね。そんな記事を書いていたらAmazonで頼んだ荷物が届いたのですが、「印鑑は不要になりました!」と配達員さん。団体の圧力と商業主義の戦いがこんなところでも?(平)
平成30年までの就業施術者・施術所数、厚労省公表 柔整師7万人超など、軒並み増
平成30年までの就業施術者・施術所数、厚労省公表 柔整師7万人超など、軒並み増
2019.10.10
平成30年末時点で、柔整師が7万人を超えるなど、あはきの各免許も含む就業施術者の数が2年前(平成28年末)よりも増加した。厚労省が隔年で公表している『平成30年衛生行政報告例』(9月4日付)で示した。施術所の数も「あん摩・マッサージ・指圧のみ」を行う施術所以外は軒並み増えた。
免許別で施術者数をみると、柔整師が7万3,017人、あん摩マッサージ指圧師が11万8,916人、はり師が12万1,757人、きゅう師が11万9,796人で、それぞれ増加した。
施術所数は、「柔道整復の施術所」が2年前の前回調査より2,053カ所増で5万77カ所、「はり及びきゅうを行う施術所」が2,151カ所増で3万450カ所、「あん摩、マッサージ及び指圧、はり並びにきゅうを行う施術所」が390カ所増で3万8,170カ所だった一方、「あん摩、マッサージ及び指圧を行う施術所」は229カ所減少して1万9,389カ所となった。
なお、施術所の数については、業界関係者から「休・廃業の届出を行っていないケースも少なくなく、下方修正が必要だ」とする声が聞かれる。
■2年前からの施術者数の増減
・柔整師 68,120人→73,017人(4,897人増、7.2%増)
・あマ指師 116,280人→118,916人(2,636人増、2.3%増)
・はり師 116,007人→121,757人(5,750人増、5.0%増)
・きゅう師 114,048人→119,796人(5,748人増、5.0%増)
「平成の30年間」で、施術者等の数はどう変わった……?
「平成の30年間」で、施術者等の数はどう変わった……?
2019.10.10
柔整・鍼灸で2~3倍の伸び! 業界の規模拡大
「福岡裁判」など規制緩和が背景に
「平成」の時代で区切れば、施術者・施術所ともに飛躍的に数を増やし、業界の規模を拡大させた。柔整師は5万人強、鍼灸師も6万人強増え、それに伴う形で施術所も増加し、柔整・鍼灸に係る伸び率は2~3倍。時代が下れば下るほど、その伸びは加速しており、養成校新設を解禁した平成10年の「福岡裁判」などの規制緩和の影響が大きかったといえる。
『医療は国民のために』280 「可変給付率」の導入は、療養費はおろか、国民皆保険の崩壊も招く
『医療は国民のために』280 「可変給付率」の導入は、療養費はおろか、国民皆保険の崩壊も招く
2019.10.10
健康保険等の公的医療保険の財源対策として、今後、議論の目玉になるのは「可変給付率」の導入だ。毎年1兆円ずつ増え続け、団塊の世代が75歳以上になる2025年までに膨大に膨れ上がる医療費に対し、国は今、新薬やAIロボット治療といった高度先進医療、いわゆるハイリスク・ハイコストの医療に保険を手厚くし、一方で、風邪薬・ビタミン剤・うがい薬・目薬などといったローリスク・ローコストの医療はその対象を外すとする方策を、財務省主導の将来設計の下に厚労省が引き受けて実行している。ちなみに、健保組合の財政は「高齢者に係る拠出金」で大半を持っていかれることから解散が加速することは間違いない。
ただ、そんな中で、いきなり「軽微な医療は全額自費」に切り替えるとなると、国民感情を無視した運用だと非難されることだろう。そこで、国が考えているのが「可変給付率」である。
当然のことながら、現在、保険給付の対象には100%の保険が利き、対象外は0%である。が、これを「可変」させる、すなわち保険給付率を自由に変更できるようにするというものだ。一部負担金に関しては、高齢者の自己負担を1割から2割に変更し、最終的には若い人と同様に全ての被保険者を3割で統一する考えのようだが、法令上、これを4割などと負担割合を強化することはできない。ところがこのような状況下で、保険給付率を変更可能にできれば、以後、保険でまかなう範囲がいくらでも縮小していける。医療保険の財源的見地からは極めて有効な財政対策となり得る。具体的には、前述の新薬の給付率を100%とし、ビタミン剤は0%とするといった形で給付率を変動させることにより、抗がん剤や白血病新薬の自己負担はゼロであるが、風邪薬やビタミン剤は全額自己負担にすることが可能となる。治療方策ごとに、あるいは薬剤の適応ごとに、あらかじめ保険給付率を変動させることができれば、保険財源などいくらでも縮小できることとなる。
例えば、これを柔整業界に置き換えてみると、いきなり柔整療養費を全額保険外にするのではなく、骨折と脱臼は療養費が100%使えるが、打撲や捻挫、挫傷については30%しか保険が利かない……というようなものであろうか。考えただけで恐ろしい。今後、可変給付率の議論が交わされないことを祈るばかりだが、そうは言ってはいられず、中央社会保険医療協議会や社会保障審議会医療保険部会での主要テーマになるだろう。
ともかく、まずは医科本体で議論されるであろうが、どう考えても「国民皆保険崩壊」への第一歩となるのは明らかだ。可変給付率の導入よりも「混合診療の解禁」が先だと私としては考えているが、保険給付の減少につながることを狙った制度設計であり、日本医師会としてもやすやすと賛成に回ることは考えられない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
第2回国際美容鍼灸学会 顔面の鍼通電、病的共同運動起こす恐れ
第2回国際美容鍼灸学会 顔面の鍼通電、病的共同運動起こす恐れ
2019.10.10
美容鍼のリスク管理なども紹介
第2回国際美容鍼灸学会が9月8日、大手町サンケイプラザ(東京都千代田区)で開催された。
『表情筋と顔面神経の特徴をふまえた鍼灸治療―顔面神経麻痺の治療からの考察』をテーマに、粕谷大智氏(東京大学医学部付属病院リハビリテーション部鍼灸部門主任)が基調講演を行った。顔面神経麻痺の後遺症について、断裂した顔面神経が本来支配していた筋とは別の筋に迷入して過誤支配することで、病的共同運動が発生すると解説。表情筋を動かす練習、いわゆる「百面相」は一見リハビリになると思われるが、そのような粗大な筋収縮は神経の迷入や過誤支配を促進して症状を悪化させると説いた。また、表情筋には四肢の筋肉と異なり筋緊張を調整する筋紡錘が無く元々収縮優位なため、筋収縮を起こす低周波通電刺激は顔面神経麻痺には禁忌であると注意。顔面神経を刺激する鍼通電刺激は、短時間ではあるが健常者でも病的共同運動を引き起こす可能性があると示唆するデータを提示した。粕谷氏は、顔面神経麻痺の急性期には強力・粗大・対称的な随意運動は回避しなければならないと呼び掛け、徹底的な筋の揉捏法と伸張マッサージ、眼瞼挙筋を用いた開眼運動を推奨した。
シンポジウムはほんあつ治療院・大磯治療院総院長の長谷川尚哉氏を座長に、上田隆勇氏(日本美容鍼灸マッサージ協会会長)、堀口三恵子氏(堀口三恵子美容アカデミー理事長)、光本朱美氏(ハリジェンヌ代表)、粕谷氏が登壇した。上田氏は内出血への備えとして、乾いたコットンや綿棒に加え、アイシングのために氷で冷やして使用する金属製スプーンなどを用意していると述べた。また、看護師として救急病棟に長年勤めていた経験から、危機管理のためにミスやアクシデントなどを報告する独自の書式を作成。従業員にはどんな些細なことでもこの書式で報告させ、再発防止や注意喚起のために院内で事例を共有していると話した。堀口氏は解剖学・皮膚科学的に出血しやすい箇所の経穴は選択しない、光本氏はPMS(月経前症候群)の時期の施術は避け、ボトックスとヒアルロン酸の注射後は2週間空ける、といったリスク回避のポイントを挙げた。
ほかに、堀口氏による『頭部及び顔面部の鍼施術に対するMRI画像評価の検討』、野村有子氏(野村皮膚科医院)の動画講演『美容鍼灸で知っておきたい皮膚科学講座』、上田式美容鍼灸®などを用いた症例・事例研究12題が行われた。
連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』18 せとうちART研究会
連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』18 せとうちART研究会
2019.10.10
「せとうちART」と聞いて「瀬戸内国際芸術祭」を想起する方も多いと思いますが、生殖医療の世界でARTと言う場合は、Assisted Reproductive Technology(生殖補助医療技術)を指します。これは大きく四つ。①体外受精、②顕微授精、③胚移植、④ヒト卵子・胚の凍結保存並びに凍結胚移植等の技術の総称です。そしてこの研究会は、瀬戸内海を囲む地域のART施設の研究会で、去る9月1日、私は同研究会の『妊娠の成立維持におけるNK細胞の関わり』という講演を聴きに行きました。子宮の中にある免疫細胞の70%はNK細胞ですが、外敵を容赦なく殺戮するNK細胞がこんなにたくさんあって、なぜ「半自己」である受精卵を攻撃しないのか。実は、免疫細胞の表面には多種多様のCD(Cluster of Differentiation)やリガンドが存在し、それらによってその働きが大きく異なります。例えば同じT細胞でも、CDが違えば全く別物のように振る舞うというわけです。さて、こんな話が何の役に立つのでしょう。私たちが使用する近赤外線直線偏向照射機を星状神経節に当てると、末梢血におけるNK細胞が変動することが分かっています。本機を使用するからには、当然知っておくべきでしょう。この機器はもともと星状神経節ブロックを目的に開発されたのですが、色んな角度から研究がなされており、こういった光線が副次的に様々な効果をもたらすことが分かってきました。昨今、自律神経と免疫機能の密接な関わりが明らかになってきましたが、交感神経優位な状態と副交感神経優位な状態とでは、体を駆け巡る免疫細胞の所在が全く異なっているらしいのです。ならば自律神経に作用する鍼灸やこのような光線が体の中で何を引き起こしているのか、知れば知るほどその後に期待すべき効果が想定されやすくなります。科学的根拠をもって、適応疾患に対する改善の可能性が判断しやすくなるというわけです。当院では特に不眠症や過敏性腸症候群、起立性調節障害などの自律神経失調症に対して、クロノセラピーという手法を用いることがあります。交感神経の抑制を一日の中のどのタイミングで行うと最も効果的であるのかを考えて、施術時間を決定するのです。
さて私達が運営する一般社団法人JISRAMでは、年に1回公開講座というものを開催します。各会員が色んな講演会や学会に行った際、「これは生殖領域を学ぶのに鍼灸師にも知っておいて欲しい」と思う内容に出会ったら、演者をこの公開講座に招請します。前回の公開講座には複数の医療機関から医師、さらには胚培養士も来聴されました。鍼灸師の一団体が開催する講座では、とても意味あることだと思います。次回は来年の3月22日(日)に京都で開催しますが、既に『生殖免疫の基礎と抗精子抗体』『子宮NK細胞』(いずれも仮題)の2題が決定しています。NHKで特集が組まれるほど免疫は熱い領域ですが、免疫という言葉は、きちんと理解されずに軽々しく使われているように感じます。全ての疾患、外傷にとどまらず健康維持にも免疫機能は大きく関与しており、知れば知るほど病気への見方がガラリと変わります。免疫に、一度がっぷり四つに取り組んでみてはいかがでしょう。一生の財産になること、請け合いです。個人的には、自律神経と免疫の相関は全ての鍼灸師が知っておくべきであろうと思いますし、そうすることで病気への理解が一層深まると思います。公開講座には毎年100人を超える鍼灸師が日本全国から集まります。生殖に興味がある方も無い方も、ご来聴をお待ちしております。聴講をリピートして本会に入会される先生もたくさんおられます。詳細乞うご期待。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。
第61回柔整教員研修会 柔整の社会的役割をテーマに331人参加
第61回柔整教員研修会 柔整の社会的役割をテーマに331人参加
2019.10.10
「柔術接骨だったかも?」柔整公認の謎
全国柔道整復学校協会(谷口和彦会長)の61回目となる教員研修会が8月24日、25日、仙台市内で開かれた。テーマは『柔道整復が社会に果たす役割』で、教員ら331人が参加した。主管校は赤門鍼灸柔整専門学校。
『柔道整復師はどのようにしてその名を得たか』と題する講演では、新潟青陵大学准教授の海老田大五朗氏が登壇。来年の2020年は「柔道整復」という言葉が内務省令「按摩術営業取締」に加えられ、柔道整復術が法的に公認されて100年目に当たる年だが、その起源が「柔術家たちによる接骨術」であるとすれば、「柔術接骨」という名称が採用されていてもおかしくなかったと疑問を呈した。この「謎」については、大正時代の帝国議会という政治の場に加え、講道館柔道の普及や接骨術の立ち位置などの影響が色濃く反映されていると言及。医療の西洋化により柔道場で盛んに行われていた接骨治療が取り締まられる中、接骨家らが柔道接骨術公認期成会運動を展開し、請願運動の代表者に「士族講道館柔道指南役・山下義韶」を擁立した点を指摘し、当時の接骨家たちと講道館柔道のつながりの強さを示した。「整復」が採用された点については、議会で政府側が「接骨医と同様のことを行う医師として整形外科医がいる」などと答弁し、西洋医療に一本化するという「医制」の観点から「接骨」を認めないとの一貫した態度が示され、その後、接骨家側のアドバイザー的存在であった医学博士の井上通泰(柔道家であり、当時の医師会の実力者)が「整復術がよかろう」と助言し、公認に至ったと解説した。海老田氏は、WHOの報告書で「柔道セラピー」と紹介され、「スポーツの名を冠する、世界で類を見ないユニークな名称を持つセラピストとして、東京オリンピックを契機に世界にアピールを」と呼びかけた。
東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太氏による講演では、認知神経科学の観点から、大脳の前頭前野の特別な領域の機能に着目し、認知機能全般を維持・向上して、精神的な健康観を向上するための手法の開発研究などについて紹介された。
このほか、元帝京大学教授・佐藤揵氏の『温故知新―シャーキー先生の「トレーニングの生理学」に学ぶ』、宮城教育大学教職大学院教授・吉村敏之氏の『学ぶ意欲を育み、学ぶ基盤を培う』の講演2題と、『マグネット式骨折模型シミュレーターを使用したサブテキストに関する教育効果について』を含むポスター発表8題が行われた。
柔整師、あはき師の労災保険施術料金算定基準の一部改定
柔整師、あはき師の労災保険施術料金算定基準の一部改定
2019.10.10
改定内容は以下の通り。いずれも10月1日以降の施術分から適用。消費増税に伴うプラス改定で、いずれも少額の引き上げにとどまった。(令和元年9月27日付)
柔道整復師
■初検料 2,485円→2,545円(+60円)
■再検料 480円→490円(+10円)
■運動療法料 370円→380円(+10円)
■特別措置料金
<骨折、不全骨折又は脱臼>
「特別材料費」1,620円→1,670円(+50円)、「包帯交換料」720円→750円(+30円)
<捻挫・打撲>
「特別材料費」970円→1,020円(+50円)、「包帯交換料」360円→400円(+40円)
■骨折(整復料)
「大腿骨」「上腕骨・下腿骨」「前腕骨」13,800円→14,000円(+200円)
「鎖骨」「肋骨」「手根骨・足根骨・中手骨・中足骨・指(手・足)骨」6,240円→6,440円(+200円)
■不全骨折(固定料)
「骨盤」「大腿骨」11,040円→11,240円(+200円)
「胸骨・肋骨・鎖骨」4,560円→4,760円(+200円)
「下腿骨・上腕骨・前腕骨・膝蓋骨」8,400円→8,600円(+200円)
「手根骨・足根骨・中手骨・中足骨・指(手・足)骨」4,320円→4,520円(+200円)
■脱臼(整復料)
「股関節」10,800円→11,000円(+200円)
「肩関節」9,480円→9,680円(+200円)
「肘関節・膝関節」「手関節・足関節・指(手・足)関節」4,320円→4,520円(+200円)
「顎関節」2,760円→2,960円(+200円)
■後療料
「骨折」980円→990円(+10円)
「不全骨折」 830円→840円(+10円)
「脱臼」830円→840円(+10円)
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師
■初検料 2,810円→2,910円(+100円)
■施術料
<はり・きゅう>2術(はり・きゅう併用)の場合 (1日1回限り)4,040円→4,050円(+10円)
<マッサージ>温罨法を併施した場合 (1回につき)100円→130円(+30円)
変形徒手矯正術を行った場合 (1肢につき)780円→790円(+10円)
<はり又はきゅうとマッサージの併用>(1日1回限り)4,040円→4,050円(+10円)
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』124 公立病院の再編から考える医療サービスの今後
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』124 公立病院の再編から考える医療サービスの今後
2019.10.10
9月末に厚労省は、市町村などが運営する公立病院と、日本赤十字社などが運営する公的病院の25%超に当たる全国424病院に関して「再編統合について特に議論が必要」とする分析をまとめ、病院名を公表しました。私の友人が勤める病院も少なくなく、戸惑いの声も聞こえています。
これらの病院は手術件数や分娩件数、救急車の受け入れ件数などの診療実績が少なく、近隣の民間病院で代替できる可能性があるなどとして、再編や縮小を求められています。厚労省に強制力はありませんが、来年9月までを期限とし、自治体などに対応方針を迫ったのは、大きな社会的インパクトでした。このような厚労省の動きの背景には、医療費の高騰が止まらないことがあります。公的病院には赤字の補填に年間8,000億円の税金が投じられており、地方の反発を覚悟の上で、病院運用の効率化を求めたのは、このままでは日本の医療が持たないという危機感を表しています。
これまでも厚労省は、診療報酬が高い急性期病床を回復期病床に転換し、高齢患者を在宅へ復帰させることが必要だと、3年前に全国の急性期病床を3割減らす計画をまとめました。しかし、地方自治体の計画では5%も減っていません。医療費抑制の抜本的な改革は政治家主導では不可能だと私は考えていましたが、官僚主導の下でやれることをやった感です。政治家主導で医療費改革が進められないのは、投票率の高い高齢者の反発を招きやすいからです。これに市場(民間病院)がどう反応するでしょうか。今のところ医師会は厚労省に同調しているようです。公的病院と民間病院は患者さんの取り合いになりますので。
医療というライフラインを維持させるために医療費削減は急務です。環境問題についてスウェーデンの高校生のグレタ・トゥーンベリさんが訴えたように、医療費の「ツケ」もこのままでは今の子どもたちの肩にのしかかります。医療費削減には3つの方法しかないと言われています。①質を下げる、②価格を上げる、③アクセサビリティーを下げる、です。質を下げるのは一人当たりの診療時間を減らすことです。価格を上げるのは、窓口での自己負担を上げることです。紹介状が無いと余計に支払わなければならない選定療養費もこれに当たります。既に高齢者や軽症の負担率を上げる議論も始まっています。アクセサビリティーを下げるというのは、気軽に病院にかかれなくすることで、外来や病床を減らすことです。前述の再編を厚労省が求めたのはこれに当たります。
急性期病床を減らし、在宅診療を増やす方針ですが、在宅診療は極めて効率の悪い医療です。おそらく次は在宅医療の見直しが議題に上ると想像します。そして、保険外サービスの活用や自費診療へのシフトは逃れられない流れだと私は認識しています。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『中国医学情報』175 谷田伸治
連載『中国医学情報』175 谷田伸治
2019.10.10
☆強直性脊柱炎60例で鍼灸治療と薬+灸治療を比較
広東省深圳市宝安区沙井人民病院・任英傑らは、難病の強直性脊柱炎で鍼灸治療と薬+灸治療を比較(鍼灸臨床雑誌、19年6期)。
対象=同院の60例(男40例・女20例)、平均年齢約33.5(16~46)歳、平均罹患期間約8.2(2~14)カ月。これをランダムに治療群(鍼灸)・対照群(薬+灸)各30例に分けた。
治療法=両群とも2カ月間治療。
<治療群>①華佗夾脊穴(第1胸椎~第5腰椎棘突起下の左右0.5寸の計34穴)に、脊柱方向45°の斜刺15mm、置鍼30分。毎日1回連続6日。②第7日目に督脈灸:ショウガを擦って泥状にして脊柱の第1胸椎~第5腰椎まで幅約5cm・厚さ約1.5cmに敷く。その上にモグサ(直径1.5cm)を約2cm間隔に置き点火し完全燃焼。これを連続3回。灸後1カ月冷水浴しない。以上①②を繰り返す。
<対照群>①薬:sulfasalazine錠剤、毎日2回服用。②「仮灸」:治療群と同じ部位と方法だが、モグサとショウガの間に紙を敷く。
観察指標=国際的な重症度判定基準と中医学の証候スコア。
結果=治療群:臨床的制御0例・著効19例・有効8例・無効3例・総有効率90.00%、対照群:臨床的制御0例・著効8例・有効12例・無効10例・総有効率66.67%。
☆原発性卵巣機能不全60例に学会推奨の鍼治療
深圳市中医院鍼灸科・卓縁圓らは、40歳未満の女性で卵巣の正常な機能が停止する原発性卵巣機能不全(POI、旧名:早発卵巣不全または早発閉経)に対する鍼治療を報告(中国鍼灸、19年7期)。
対象=同科外来の60例。平均(32±3)歳、治療前無月経/希発月経期間は平均(1.8±0.8)年。いずれも、2016年欧州学会(ESHRE)ガイドラインの診断基準(40歳未満。無月経/希発月経期間が少なくとも4カ月。2回のFSH測定値が>25U/L)に符合。
治療法=中国鍼灸学会の推奨治療法。
①取穴―A(仰臥位):百会・神庭・本神・中脘・天枢・関元・子宮(奇穴。中極穴の左右各3寸)・大赫・足三里・三陰交・太衝、B(伏臥位):百会・腎兪・次髎・太渓。以上2組を交替で使用。
②操作―百会・神庭・本神は水平刺10~25mm、太衝は湧泉方向に10~25mm、腎兪・太渓は直刺10~25mm、次髎は内下方に60~75mm、その他は直刺25~40mm。全穴に提挿捻転手法(百会・神庭・本神は捻転のみ)で得気。左右の足三里と三陰交、次髎と腎兪に通電治療(疎密波、2/15Hz)。毎回置鍼30分。毎週3回、計3月経周期(無月経者は連続3カ月)治療。
観察指標=月経・排卵・卵巣・子宮状況。血中ホルモン(E2・FSH・AMH)。自己評価不安スケール(SAS)。クッパーマン更年期指数(KI)。
結果=月経(治療前→後の例数)は、正常0→18、不規則51→34、無9→8。排卵は、有18→18、間欠24→32、無18→10。治療後のFSHは、有意に下降。FSH測定値>40U/Lの患者34例のE2は、有意に上昇。子宮内膜厚度は、有意に増加。臨床的効果は、回復9例・著効12例・有効31・無効8例。
☆精子無力症には薬物単独より灸併用治療
成都市の四川省中西医結合病院・邵欣らは、精子無力症で薬物単独と灸併用治療を比較(上海鍼灸雑誌、19年7期)。
対象=同院男性科の75例、平均約31.5(24~42)歳、平均罹患期間約2.9(1~8)年。いずれも、中医学の「腎陽不足」型。これらをランダムに、薬物群39例・灸併用群36例に分けた。
治療法=両群とも「強精片」(成分不明、成都中医薬大学病院西薬房提供)を1日3回、12週間服用。
<灸>取穴―関元・命門。操作―棒灸で透熱灸(関元穴では命門まで熱が浸透するように施術)、毎穴隔日1回交替で使用、毎回30分。
観察指標=精子の運動性(運動率)―PR率、NP+PR率(PR:前進運動精子、NP:非前進運動精子)。中医学の証候評価。
結果=臨床効果では、薬物群:治癒1例・著効5例・有効25例・無効8例・総有効率79.5%、灸併用群:治癒3例・著効15例・有効16例・無効2例・総有効率94.4%。精子の運動性では、薬物群は有意に改善(P<0.05)、灸併用群も有意に改善(P<0.01)していた。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。
都道府県別の就業あはき師・柔整師数 厚労省『平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』から
都道府県別の就業あはき師・柔整師数 厚労省『平成30年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況』から
2019.10.10
9月4日付で発表。2年前(平成28年末)の前回結果とその増減率(小数点以下2位を四捨五入)を併せて掲載する。
Q&A『上田がお答えいたします』 医療助成費の還付の返還のタイミングは?
Q&A『上田がお答えいたします』 医療助成費の還付の返還のタイミングは?
2019.10.10
Q.
今年から、あはき療養費にも受領委任の取り扱いが開始されましたが、いまだに従来の代理受領や償還払いの保険者も見受けられます。それぞれにおける、医療助成費も含む窓口で徴収した一部負担金を患者さんに返還するタイミングをご教示願います。
A.
療養費は施術費用の10割を患者・被保険者が支払って初めて請求権が発生し、被保険者が請求すると保険者から3割の一部負担金相当額を差し引いて支給されるものです。しかし、柔整療養費においては、協定・契約に基づき、実際には3割しか窓口で徴収しなくとも10割を患者さんが支払ったものと見なして受給権を発生させています。昨年まであはき療養費には受領委任の取り扱いが無かったので、患者さんが窓口でいったん10割を支払っておいて、後日、療養費が支給されたら施術所から7割を返還する、というケースも生じており、このわずらわしさも保険者の償還払いへの移行の理由の一つとされていましたね。さて、今後は受領委任の場合、現物給付として取り扱って良いのですから、窓口では療養費相当額、医療助成費分ともに全額受け取ることはありません(ただし、自治体によっては医療助成費額が一部負担金額に達しない場合がありますので、その際は差額のみを窓口で徴収します)。問題は代理受領の場合で、これは二つのパターンに分かれます。受領委任と代理受領を特段区別せず、「協定・契約の規程があるのが受領委任で、それが無いのが代理受領」程度しか認知していない保険者が大多数で、「受領委任だからこそ、窓口で医療助成費を含めて一部負担金しか払わなくても10割支払ったとみなされ、療養費の受給権が発生する」ことを理解していないのです。つまり代理受領と受領委任を混同している保険者については、最初から現物給付化して窓口徴収しなければ返還する問題も発生しないでしょう。
しかし、保険者の中には「10割の支払いがなければ受給権が発生しない」ことを知っている者もいて、これが通用しません。とはいえ、代理受領も償還払いも、窓口で医療助成費分をも含めて徴収しているのだから、これをどのタイミングで患者さんに返還するべきなのか、対応に迫られます。実は、明文化された決まりなどはありません。現実的には、①保険者や自治体から支給される前に適宜返還する、②支給を確認してから返還する、のいずれかになるでしょう。支給前に返還したほうが実務処理上簡便ですが、何らかの事情で支給されなかった場合はトラブルに巻き込まれる可能性もあります。支給後に返還した方がよろしいかもしれませんね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『汗とウンコとオシッコと…』182 Misunderstanding
連載『汗とウンコとオシッコと…』182 Misunderstanding
2019.10.10
金木犀が咲くのが例年より2週間ほど早い……秋だ。10月に至ったのにもかかわらず、太陽光線は強く、日中は30度を超える日が続き、朝方は例年のごとく涼風が吹く。こうなると身体はどうなるのか。血圧の日動変化で、朝方に血圧が下がり、背面細動脈側が低圧になり体表温度が下がれば、寝違い、急激な肩の痛み、ぎっくり腰様の筋・筋膜性腰痛、仙腸関節痛が引き起こされるのは毎年のことだ。ましてや女性は月経が絡むので腰痛を助長しやすいのは言うまでもない。また、体表温度が下がることで不感蒸散、所謂、陽気の発散が阻害されれば咳嗽寒熱の症状が現れやすい。もちろん、現代医学的には、溶連菌などの感染症に罹患しやすいというわけだ。
松下某という患者が来院した。40代前半で、川端がよく行く飲み屋の大将なのだが、昨日は店を開けることができないくらいの腰痛だったそうだ。高校時代は野球で甲子園出場経験が三回もあり、大学でもそこそこ活躍したがっしりとした体格の持ち主だ。
「先生、えらいことですわ。飲み屋が提灯の火を消すことになるとは……腰が痛くて、どないもこないもならんのです」
と、嘆くのを聞きながら、脉を取るのは横転先生だ。
「いつも川端が世話になってるようで、すんませんな……でも、えらい頑丈な御仁やな」
「大学の時に先輩に腰を蹴られて分離症になったんですわ……。25年前のことです、1カ月は動けませんでした。今そんなことしたら大問題やけど、ええも悪いもない時代で……それからたまに腰痛が出るんですけど、これほどひどいのは初めてで……」
「背中見せてくれるか? ……うーん。確かに分離症はあるけど、この腰痛に関しては分離症が関わっとる可能性は5%以下やな、消費税よりも率が低い。ハハハ……。
味見による食べ過ぎと、クーラーの中で寝てるから筋肉が冷えて攣った感じになってるだけやな。要するに血の流れが悪いだけで生活習慣病みたいなもんやぞ。分離症が関与するんは、アンタの体力やったら70歳超えてからやな……」
「えっ、そうなんですか」
松下さんは怪訝そうに言うが、手足の鍼後には痛みがかなり軽減した。
「先生、人差し指を一カ月前に突き指してあんまり曲がらんのですわ。これも血の流れと関係あるんですか?」
すっかり信用しきった様子で聞く松下さん。
「疑似糖尿病みたいになってるから、指先に行く血が少なくて治す力が無いわけやな。よし、見とけよ」
と、横転先生が背中側から右の胃兪に丁寧に刺入して、
「動かしてごらん」
「先生、曲がりますわ……」
と驚く飲み屋の大将。
「これで分離症はあんまり関与してないのが分かったやろ。生活習慣病やな。疲れた時、チョコレートを爆喰いしてるのをやめろよ。ひどくなる……」
「な、何で分かったんですか?」
「わしの仕事や」
ニヤリと笑う横転先生だった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。
連載『医療再考』8 これからの医療・健康は検索から始まる~情報コミュニティーで検索されるには~
連載『医療再考』8 これからの医療・健康は検索から始まる~情報コミュニティーで検索されるには~
2019.10.10
医療や健康に関する情報や商品は、かつて「簡単に入手できない、難しいもの」であり、「医師などの専門家から提供されるもの」でした。そのため、病院や治療院が、病気や健康の相談をする場として大きな役割を果たしてきたのです。
しかし、数十年前からテレビの健康番組や雑誌の特集、書籍などのマスメディアによる情報の拡散が主流になり、誰でも簡単に情報や、商品そのものを入手できるようになりました。健康番組や雑誌で取り上げられるたびに、その商品が飛ぶように売れ、品薄になってしまうような事態も珍しくありません。しかし、そうした情報は病気や健康の一部の側面を捉えているだけで必ずしも個々のニーズに合っていないことも多いため、逆に、より強く自分に合った情報が求められるようになりました。そんな時に役に立つのがインターネットによる情報検索です。インターネットから得られる情報はバリエーションに富み、個々のニーズに合った情報を簡単に入手できることから、健康に限らず、情報収集や商品選定の主流となっています。今や、健康や病気に関する情報集めは、病院で話を聞くことからではなく、インターネットの検索から始まるのです。
しかし、そこには二つの問題があります。一つ目は情報の信憑性です。メディアやインターネットから発信される情報は必ずしも正しいものではなく、誤りや作為的な情報も含まれています。誤った情報を拡散してしまった場合には、その責任を取ってテレビ番組が打ち切りになったり、医療サイトが閉鎖に追い込まれるなどという事態も起きています。特に、我々鍼灸師や柔整師は、インターネットを介して情報を発信する側にいるため、情報発信のあり方や情報の信憑性の担保には細心の注意が必要です。最悪の場合、情報コミュニティーから我々が締め出されてしまう可能性もあるでしょう。情報コミュニティーに我々が加わり、選択肢の一つになるためには、「へルスリテラシー」を強く意識しなければならないのです。
二つ目は、検索の結果から、どのようにして医療・健康行動に導くかという問題です。情報を得ただけでは問題は解決せず、その後にどうすればよいのかという行動が必ず伴います。ICT環境下で様々な情報をつなぎ合わせることで解決に導く情報コミュニティーが求められているのは、そのためでもあります。情報コミュニティーと強いつながりを持つ情報、言い換えればそこで必要とされる情報を提供しなければ、検索しても我々の情報が選ばれることはありません。情報は持っているだけでは意味がなく、その情報を基軸に「どのようなつながりを作れるのか」こそが、インターネット検索から始まる医療において中心にいるためのポイントなのです。情報の質や量だけが物を言う時代はもう終わりです。他の情報とのつながりを意識した情報ネットワークの構築こそが、これからの鍼灸・柔整業界が勝ち残るためのカギとなっていくでしょう。
【連載執筆者】
伊藤和憲(いとう・かずのり)
明治国際医療大学鍼灸学部長
鍼灸師
2002年に明治鍼灸大学大学院博士課程を修了後、同大学鍼灸学部で准教授などのほか、大阪大学医学部生体機能補完医学講座特任助手、University of Toronto,Research Fellowを経て現職。専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、「痛みの専門家」として知られ、多くの論文を発表する一方、近年は予防中心の新たな医療体系の構築を目指し活動を続けている。