Q&A『上田がお答えいたします』 被保険者の不服申し立てを認めない暴挙
2018.11.25
Q.
患者さんに健保組合から柔整療養費に関する照会文書が届いたのですが、その中に「同意書」なる文書も添付されていて、事業所名・被保険者証記号番号・住所・氏名を記入の上押印して提出せよというのです。しかも、「同意書の内容には一切の異議の申立てをしない」と念を押させるような記述もみられます。
A.
保険給付をするに当たって関係者に照会等を行うことは健保組合の権限として健康保険法上認められていますが、その際、「同意書」なるものは必要ありません。しかし、この健保組合の狙いは別のところにあるのです。件の「同意書」には、最下部に「後日、本件について○○健康保険組合に対して一切の異議・請求等の申し立てを致しません」とありますね。これは患者さんが「後でどんなことになっても健保組合に不平・不満を言いません。何も文句を言わずに黙っておとなしくしていることを誓います」と言わされているのと同じです。つまり、患者さんに対して、個人情報などの使用への同意を口実にして、「不支給処分に逆らうのは許さない」とする違法な事務処理を強要しているのです。なんとも恐ろしい健保組合ですね。
この「同意書」は、「後日、保険給付が不支給決定となって全額自費扱いになり、整骨院に不支給分のお金を支払わねばならなくなっても文句を言いません」と、保険決定への不服申し立てをしない意思表示を支給決定前に被保険者に強要するための同意書なのです。つまり、同意書の形式を利用した不服申し立て阻止、審査請求逃れの方策です。患者さんがこれを書いてしまったら、後になって不支給決定処分に不服であると申し出ても、健保組合は「あなたは異議を申し出ないことに同意したでしょう」と言ってくるでしょう。これは、一切の異議の申し出ができなくなることを狙った、極めて悪質な取り組みです。健康保険法上の「保険給付を受ける権利」に抵触しますし、不支給決定処分後の審査請求を認めないとする記載があることから、社会保険審査官及び社会保険審査会法にも抵触する、法令上あり得ないものです。このような、法律に違反している同意書を書いてはなりません。訳の分からない同意書を書いたら損失を被るのは患者さんですので、施術者も目を光らせておく必要があります。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。



