Q&A『上田がお答えいたします』 同意書は患者の希望により医師が交付するもの
2018.12.25
Q.
「同意書交付があくまで患者の希望だから」と、はり・きゅう施術の療養費が不支給処分にされてしまいました。この保険者の判断には大きな疑問を感じます。
A.
結論から述べれば、それは明らかに誤った不支給処分です。本来、保険医が患者さんを実際に診察した上で、支給対象となる「6疾病」と診断して同意書を交付したら、支給要件である「医師による適当な治療手段のないもの」として支給してよいのです。
また実態としても、医師が自らの見立てで「これは鍼灸を受けさせたほうがよい」などとは考えません。むしろ患者希望の方が圧倒的に多いと考えるのが普通でしょう。なぜなら、保険医の中で東洋医療や鍼灸治療の有効性及び有用性を熟知している者は極めて少ないからです。例外として、医師が鍼灸の効能・効果を理解していることもありますが、その場合、医師自らが鍼灸治療を行っています。よって、通常は保険医が鍼灸施術を患者さんに勧めるわけはなく、患者さんの希望が当たり前であり、それにより保険医が同意するといった流れになっているといえます。
そんな中で、国の通知を理解していない保険者のごく一部は、患者照会などで「過去にも腰痛症の症状があり整形外科を受診したのですが、思う様でなかったため、はり・きゅうでの治療を希望しました」といった回答から、「患者自らの希望によって交付された同意書には意味がない」と解釈し、同意医師に対し「医師による適当な治療手段が本当にどうしてもなかったんでしょうか。その上で治療手段がないために同意したということでしょうか?」といった確認を行っているようです。同意医師が「腰痛症は医師による適当な治療手段はあるが、患者さんに頼まれたからはり・きゅう施術に同意した」と回答しようものなら、「単に患者から頼まれて交付された同意書は療養費の支給要件を満たしていない」などととぼけた不支給処分を行う保険者もおり、困ったものです。そもそも健保組合などが患者さんの希望で鍼灸を受療したことをことさら問題視するのであれば、年間400億円を超えているあはき療養費の支給申請自体が「大問題だ」と言っているようなものなのです。通知を正しく読んで、判断してもらいたいですね。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。