連載『織田聡の日本型統合医療“考”』98 従来の「消耗型うつ」と最近の「未熟型うつ」
2018.08.25
先日、産業医講習会を受けてきました。現在、既に90,000人を超える医師が日本医師会認定産業医に登録しているといい、医師の数が全国30万人ですから、亡くなられた医師の認定登録が放置されているとはいえ、医師の3、4人に1人は産業医であるとの計算になります。「そんなに産業医がいるのか」と驚き、私も研修会に参加することとなりました。
近年、大手広告代理店や研修医などの過重労働が報道され、職場のメンタルヘルス問題に注目が集まっています。実際、3年前の2015年には、精神障害の労災請求件数は1,500件を超え、長時間労働や職場環境による労働者のメンタル不調を予防し、精神的健康を保持増進するための「ストレスチェック制度」がスタートしました。この制度は、あくまでチェックする機会を事業者が従業員に提供するもので、その治療や介入については、産業医と精神科医と事業主が個別に対応していくことになります。
産業医にとっては、このストレスチェックが最近のトピックスの一つであり、その話が非常に面白かったです。筑波大学の松崎一葉先生によると、最近の「うつ」には、従来のうつとは違う「未熟型うつ」というのがあります。一番の違いは、精神的余裕が残っているという点です。従来の「消耗型うつ」が過重なストレスが原因で、やり甲斐と目標喪失による『燃え尽き』であるのに対し、「未熟型うつ」は人格の未熟が原因で、自己愛が強く、根拠のない万能感を持ち、他罰的で無反省、嫌いなことはしたくない、というタイプ。具体例を挙げれば、「会社は精神的不調で休むけれど、消耗はしていないのでディズニーランドには行ける」「SNSに写真をアップしたりして、周りの陰性感情を揺さぶり、そして、それを心の底から、“何が悪いの?”と思っている」など。
従来のうつ患者さんには「激励禁忌原則」というのがあり、「頑張れ!」と言ってはならないとされてきました。ところが、「未熟型うつ」の患者さんに「頑張らなくていいよ」というと、一生頑張らない。「消耗型うつ」の患者さんに「頑張れ」というと消耗して頑張る力が残っていないので追い詰めることになりますが、「未熟型うつ」は、そもそも消耗していないので、「頑張れ」や「頑張っていこうぜ」というのが正解。
うつは多くの不定愁訴を伴い、鍼灸の適応があります。場合によっては「うつ」そのものにも効果が望めるケースもあるでしょう。日々の臨床でそういう患者さんが来られたら、治療しながら、今回の話を思い出してください。そして何より、精神科医や(労働者であるなら)産業医との連携が重要であることには違いありません。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。