連載『織田聡の日本型統合医療“考”』102 伝統医学と日本人のからだ
2018.10.25
日本人と西洋人は骨盤のつくりが違うといいます。日本人をはじめとするアジア人、モンゴロイドは、西洋人のコーカソイドと比較して骨盤が立っているので、バランスを取るためにどうしても猫背になりがちです。私はお寺の血を引くため、子供の頃から畳の上で座禅をしている方が椅子に座っているよりも楽ですし、座禅とまでは言わなくても、多くの日本人はあぐらをかく方が椅子に座るよりも楽だと思います。これは遺伝的な体型の問題ですので、どちらが良い悪いというわけではありません。
医学生だった頃に解剖実習をしていると、教科書や資料が西洋人を基準としているので、実際の日本人の御遺体とは構造が異なるようなことはちょくちょくありました。そんな日本人の解剖学的及び統計学的な特異性についてまとめた本もありますので、ご興味があれば探して読んでみるとよいかもしれません(例えば、佐藤達夫ら編『日本人のからだ―解剖学的変異の考察』東京大学出版会、2000年2月)。さて、このような観点から考えてみると、日本人の腰痛への対応や正しい姿勢の指導は、欧米のやり方をそのまま輸入しただけでは不十分で、日本人向けにいかにアレンジすることが必要であるかが分かります。元来、日本人は単一民族であり、そういったアレンジが得意な民族だともいえますが、そんな目線で手技を見直してみてはいかがでしょうか。今の日本の医療のメインストリームは西洋医学で、医療の根拠となる情報というのは、残念ながら日本より諸外国から、コーカソイドの国々から出てきています。EBMを実践する時に集められる医療情報は母集団がコーカソイドの臨床研究が多いので、日本人向けに常に検証しながら治療しなければなりません。
鍼灸や柔道整復の手技はアジアが起源と考えて良さそうですが、アロマセラピーやカイロプラクティックは基本的にコーカソイドの国々発祥です。例えば、お年寄りの鬱にアロマセラピーを活用しようという臨床研究をするとしましょう。対象が日本人の場合は、エッセンシャルオイルに嗅いだこともない花の匂いを使うのではなく、子供の頃から慣れ親しんでいるお線香に使われる香木の香りを使用した方が、効果があるのではないでしょうか。
遺伝子診断が世の中に出現したことによって、テーラーメード医療とか個別化医療とかがますます重要視されるようになっていくでしょう。遺伝的な要素だけでなく、文化的背景、社会的背景をも勘案して医療を提供するように努めたいものです。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。