連載『汗とウンコとオシッコと…』173 垂れる その一
2019.01.10
新たな年を迎え、平成が終わろうとしている。昭和の戦後復興の激動期を経て、発展、成熟期を迎えながら平成に至り、「この国のかたち」はゆっくりとした緩慢な衰退を見せる、と予言した司馬遼太郎氏の言葉を思い出す……。本当に、どう変わっていくのだろうか。エネルギー革命がないとなかなか難しいのではないだろうかと思う今日この頃だ。
去年から本当に暖冬だ。寒波は来るもののスキー場は涙目で、筆者も12月に桜と紅葉を同じ日に見たのは生まれて初めてのことだった……身体は、不安定な天候と同様に上に熱が上がり、体幹部で化風する。それを制御する厥陰や少陽に負担がかかり早くも『難経・四十九難』の冬の病と春の病が混在する実邪の症状が荒れ狂う。大寒から立春に至ってどう変化が出るか予想がつかないのが実情だ。木気の暴走は予想が出来ないと古来から言われているのがよく分かる。
ガチャン! 森畑が湯飲みを落として割った。正月以来、よくつまずいたり、物を引っかけて落としたりしている。
「どないしたんや、森畑……あれ?」
「気が付かれましたか。眼鏡越しの屈折でバレないかと思ったんですけど……」
と、言いながら眼鏡を外す森畑……。
「いっ、いや、いや、いや。森畑氏、左の、が、眼瞼が下がってるでござるよ」
「そうなんや。陸上部の顧問の服部っておったやろ。あいつの所で3日間、酒の中で泳いだんや。集まったの、どいつもこいつも体育会系で、飲み食いが激しくて……。俺は胸郭も骨盤も狭い体型で、飲めるけど食えん。あいつらバカでかいから食えるし飲める。それを同じように食え、食え、言いよる。だから少量のオードブルでごまかしたんやが……あかんわ。少量で高カロリーのオードブルは胃と肝臓に血を持っていきよる。おかげで、熱が体幹背中側と違って上に上がって眼瞼下垂……。片方が見にくいから眼距離感狂って、物をひっかけたりつまずいたりする、このザマや……」
「ほう、分析出来とるやんけ。やったことは仕方がない。お前らなら、このような疑似末梢神経麻痺をどう治すんや?」
と、横転先生が問題提示。まずは森畑本人が答える。
「そうですね。左の内庭を中心に……『素問・痿論』にある『獨り陽明を取れ』に従いますね……。それか強烈な下剤で内熱を除去……ただし、これは先生に許可をもらわんと」
「何でや?」
「ずっとトイレから出られなくなる、トイレ座敷童になりますから……」
「なるほど、それもアリアリやな……。それで、川端やったらどうするんや」
「簡単でござる! げっ、原因は、ちっ、血が粘って肝臓が処理できない窒素系の毒でござる……。ゆっ、故に、献血に行って、血を400ml抜いて粘りを除去するでござるよ……」
「ほう、それは裏技やな。それ、お前の考えか? 違うやろ」
「いっ、いや、いや、いや、拙者、正月は割石先生の所で過ごして……『しんどかったら、川端は元気やから献血行ったら復活する』と言われて……す、すでに実行済みでござる! さあ、森畑氏、や、休み時間に行きましょう……」
(森畑……余計に脱水になって潰れるやろな……。誰にでも効くわけないやろ)
頭の中でつぶやく横転先生だった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。