連載『食養生の物語』73 豆腐か、豆富か
2019.06.25
「豆腐が体にエエってテレビでやってたから、毎日3丁食べてます」という患者さん。そんなに食べたら体が冷えるからほどほどにしときましょか、と返すと、「そやから湯豆腐で食べてますねん」と返ってきました。さて、湯豆腐だと冷えないものでしょうか。大豆は収穫時期としては秋ですが、枝豆として知られるように夏に大きく成長する作物。ですから体を冷やす作用のある陰性な作物と考えられます。すなわち大豆を主原料とする豆腐もまた体を冷やす性質のある食べ物です。口にするときの状態は温められていても、元の性質は変わりません。ましてや3丁ともなるとさすがに体が冷えてしまいます。健康に良さそうだからと豆乳をたくさん飲む人も、同じ理由で注意が必要です。食養生のお手当てには、解熱の特効薬として「豆腐パスター(豆腐湿布)」というものがあります。家族が脳出血で倒れた際に救急車が到着するまでの間、咄嗟に豆腐を潰してガーゼで包んだものを後頭部に当てていたら軽度で済んだという話を聞いたことがあります。虫垂炎でも豆腐湿布で激痛が和らぎ熱が下がって自分で病院まで歩いて行き、手術せずに帰ってきたとか、驚くような話も。こうした逸話からも、熱を下げる働きがあることが分かりますね。
歴史的には、豆腐は鎌倉時代から室町時代頃に中国から日本に伝わりましたが、大陸のものよりも日本の豆腐の方が食感は柔らかいようです。大豆を水に浸してからすり潰し、さらに水を加えて煮詰めたものが、呉(ご)。呉を濾して絞ったものが豆乳。絞った残りの固形分がおから。豆乳を加熱した時に上澄みの固まってくるものが湯葉です。豆腐は豆乳ににがりを加えて固めたもの。そのまま固めて作ったものが「絹ごし豆腐」、固まりかけたものを崩し、型に木綿の布を敷いたところに入れて成型し、圧力をかけて水分を絞ったものが「木綿豆腐」となっていきます。国産大豆と海水にがりだけで作られた豆腐はそのままでも美味しく、塩をひとつまみかけると大豆の甘みが引き立ちます。店頭では、凝固剤として塩化マグネシウム含有物や硫酸カルシウム、消泡剤としてグリセリン脂肪酸エステルを用いたものも見かけますが、大豆の旨味が感じにくくなるため、醤油をたくさんかけたくなりがちです。また、「凍み豆腐」「高野豆腐」と呼ばれる、冬の冷気で水分を飛ばして乾燥させたものは身体を冷やす作用が弱まります。良質な植物性たんぱくとして積極的に摂りたいもの。ただし、工場で乾燥させて製造されたものは避けたいところです。
ところで、東洋医学では「腐熟」という、食物を消化する時に脾胃(消化器)でドロドロにした状態を指す言葉がありますね。実はこれが豆腐の名前の由来。固まる前の豆腐がそう見えたことから「腐」の字が当てられたもので、腐っているわけではないのです。このことから「豆富」と表記するところもあるようです。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。