連載『食養生の物語』69 時代をまたぐミソ
2019.02.25
最近、患者さんから立て続けに「味噌づくり教室に参加してきた」という話を聞きました。味噌は「買うもの」だったのが、自分で「つくるもの」に移りつつあります。健康への意識が高まり手づくりゆえの安心感、食べられるように熟成するまで待つ時間も楽しみのようです。加えて今年は、平成最後の仕込みになることもあってチャレンジしてみようという気持ちを後押ししているようにも感じられます。
寒仕込みといって、味噌を仕込むのは1月から3月にかけての頃が良いとされています。大きな理由としては、気温が高いと発酵が急激に進んでしまうためです。まずは寒い時期にゆっくりと、やがて夏に向かって気温の上昇とともに発酵が進み、そこから秋に気温が下がってくるまでの過程を経ることで味が馴染んでくるとされています。大豆を洗った後、半日以上浸漬した後に柔らかくなるまで煮てから潰し、冷まして麹菌と塩を混ぜ合わせるまでが仕込み。容器で密閉し重石をして、10カ月後からが食べ頃になってきます。長期熟成すれば旨味が強くなります。旨味は大豆たんぱくが分解してできるアミノ酸に影響されるので、熟成が進むほど分解度が高くなるため。2年以上熟成させると色が濃く、香りも強い味噌になっていきます。熟成が進むということは、発酵が止まっていないということ。味噌は生きているわけですから、乳酸菌や酵母も生きたままでいただくことになります。整腸作用や美肌効果にも期待ができますね。
過去に、大豆アレルギーがある何人もの患者さんから、3年以上熟成させた味噌でつくる味噌汁ではアレルギー反応が出ないという話を聞いたことがあります。先の発酵過程からすれば、おそらく、アミノ酸レベルに分解されることでたんぱく質に反応しないのではないかと考えています。ただ、これを記した文献に出逢ったことがないため、推測の域を出るものではありません。
ところで、家庭で味噌を仕込むようになると、スーパーなどで売っている味噌の価格が、原料である国産大豆よりも安いことに疑問を持つようになります。主な理由は、そうした製品の味噌の原料が輸入大豆であること、「速醸」といって3カ月ほどの短期間だけの熟成であることなどにあります。ただ、それでは旨味が出ないので、化学調味料が添加されているのです。また、原材料欄に「酒精」「アルコール」といった表記がある場合は発酵を止めていることになりますから、味噌の効用は期待できません。体験を通して知ることは、まさに食育ですね。
時代は「モノ消費からコト消費へ」と言われています。これまでは買っていたモノから、自分でつくる体験をするコトへ。モノからコトへのシフトがまさに「ミソ」です。体験こそ、次の時代に引き継がれていく秘訣なのかもしれませんね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。