連載『柔道整復と超音波画像観察装置』169 肩関節脱臼に対するPOCUSによる評価について
2019.04.25
1095号(2019年4月25日号)、柔道整復と超音波画像観察装置、
宮嵜潤二(筋・骨格画像研究会)
学術雑誌『New England Journal of Medicine』にMooreらによる総説“Point-of-Care Ultrasonography”が2011年に掲載され1)、「POCUS」が世界的なブームとなっている。POCUSとは「Point-of-Care Ultrasound」の略で、身体診察の延長としてのエコーのことを指す。近年のエコー機器の小型化によりベッドサイドだけではなくどんな場面においても、関心領域に対するエコー検査が可能となったことから広がったものである。今やポケットエコーはスマホ程度の大きさとなっており、国内の内科系雑誌で多くの特集が組まれるなど、様々な領域で関心が広がりつつある2,3)。筋骨格系の障害において、今年の4月に肩関節脱臼の評価に対するPOCUSの有用性に関するレビュー及びメタアナリシスの論文4)が掲載されたので紹介したい。
肩関節脱臼に対するPOCUSの正確性を単純X線撮影と比較して評価するために、前向き無作為化対照試験の論文7文献を「PubMed」「Scopus」「CINAHL」「LILACS」「Cochraneデータベース」「Google Scholar」の検索エンジンから選択基準に基づいて抽出し、739件の評価のうち306件の脱臼が検討された。POCUSは、肩関節脱臼の診断に99.1%(95%confidence interval;CI 84.9-100%)の感度と 99.9%(95%CI 88.9-100%)の特異度で、陽性尤度比796.2 (95%CI 8.0-79,086.0)、陰性尤度比0.01 (95%CI 0-0.17)が認められるというものであった。また、関連する骨折に対しての感度と特異度はそれぞれ97.9% (95%CI 10.5-100%)、 99.8% (95%CI 28.0-100%)であった。単純X線撮影との間には有意な差は認められず、POCUSが肩関節脱臼と関連する骨折に対して高い感度と特異度を持つことが、本論文において明らかにされた。
エコーは骨折や脱臼に対して被爆のリスクが無く、治療までの時間を短縮させることで医療費の削減にも寄与する可能性が示されている。ポケットエコーの普及によるPOCUSの広がりは、筋骨格系の障害においても例外ではないだろう。柔整師や鍼灸師には臨床の特性上、POCUSが向いているのではないだろうか。その業務範囲とルールに則ったPOCUSが望まれるかもしれない。
参考文献
1)Moore CL, Copel JA. Point-of-care ultrasonography. N Engl J Med. 2011 Feb 24;364(8):749-57.
2)聴診・触診×エコーで診断推論!Point-of-Care超音波(POCUS)の底力. 総合診療. 2018年6月号. 医学書院
3)内科医のための「ちょいあて」エコーPOCUSのススメ. Medicine. 2018年11月号. 医学書院
4)Gottlieb M, Holladay D, Peksa GD. Point-of-care ultrasound for the diagnosis of shoulder dislocation: A systematic review and meta-analysis. Am J Emerg Med. 2019 Apr;37(4):757-761.