『医療は国民のために』279 被用者保険に見る財源の枯渇 ―止まらない高齢者医療拠出金に打つ手なし―
2019.09.25
1105号(2019年9月25日号)、医療は国民のために、
療養費の支払い側である健保組合の財務状況が厳しい。高齢者医療を支える「拠出金」が無策のまま膨張するのだから、保険料を引き上げるしか施す術がない。あと7年もしないうちに、協会けんぽの保険料率(平均10%)を超える健保組合も続出。そうなれば、そもそも健保組合を自主的に運営している意味は無く、今後1,000程度まで減少するだろう。その結果、「健保組合→協会けんぽ」と移行し、協会けんぽは被保険者増で業務が大幅に増加する。その業務量に見合う人員の採用は当然必要なのだが、財務省がこれを認めないと思う。
被用者保険である健保組合も協会けんぽも悩みの種は、冒頭に挙げた「拠出金」だ。以下はざっくりとした金額で紹介するが、拠出金は健保組合で3兆4,500億円、協会けんぽで3兆5,000億円と似たような額だが、協会けんぽには国庫補助金1兆2,000億円が収入として入ってくる。協会けんぽの黒字の要因は、被保険者数の増加に加え、賃金(標準報酬月額)がアップしたことによるものだが、現状では6,000億円の単年度収益増となって準備金が3兆円弱と膨大に保有している。しかし、こんなものは高齢者に係る「拠出金」であっという間になくなってしまうだろう。団塊の世代が75歳に到達する「2025年問題」もあって、あと4年程度で瞬く間に赤字に転じることは目に見えている。一方、健保組合は協会けんぽの保険料率見合いで料率が逆転すれば、存続させる意味がないから〝躊躇なく〟解散となり、協会けんぽに移管される。だからこそ健保連は早急な高齢者医療の負担に係る構造改革を声高に主張している。ところが、いまだに打開策を見いだせていない。財務省も厚労省も名案が無く、「金は有るところから引っ張ってくりゃあいい!」ということで、健保組合の財源悪化は免れないのだ。健保連が公表している2019年度予算によれば、赤字健保組合は856組合で全組合の61.7%を占め、平均保険料率も12年連続でアップしている。302組合が協会けんぽの平均保険料率10%以上の健保組合である。
とはいえ、こうなることは15年も前から分かっていたではないか。だからこそ、私は高齢者が比較的お世話になりやすい環境下にあった整骨院や鍼灸院を流行らせ、療養費で「ローコスト・ローリスク」を全面的に賄う方策を提案してきたのだ。しかしながら、その思いとは相反し、あはき・柔整療養費は抑制され、「ハイコスト・ハイリスク」の高度先進医療や高額新薬が次々と収載されて保険適用となる。
健保組合及び協会けんぽの生き残り方策はローコスト・ローリスクに患者を集中させることだったのだが、方向性は完全に逆を向き、「拠出金の膨張」はもはや止められない。当然、あはき・柔整療養費の先行きも厳しいものになるだろう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。