連載『食養生の物語』78 おもてなしの神髄
2019.11.25
ラグビーワールドカップが盛況のうちに閉幕しました。振り返ってみれば日本代表チームの躍進はもちろん、大会運営のスムーズさや観客のマナーなども含め、あらゆる意味で日本が世界から高い評価を受けた大会だったと言えるでしょう。開催前には「外国人頼みの日本代表」といった批判的な声も聞かれましたが、海外出身の日本代表選手たちが試合開始前には涙を浮かべながら「君が代」を斉唱するなど、日本代表としての誇りを持って戦う姿が知られていくにつれて段々と受け入れられていき、応援も盛り上がりを見せました。また、海外代表チームの選手たちが、試合終了後には一列に並んで観客にお辞儀をし、ロッカールームを掃除してからスタジアムを去るなど、「日本人らしく」振る舞うようになっていったことも興味深いですね。
さて、選手のインタビューでは「ラーメンが好き」「昨夜は寿司を食べた」などと、日本食の話題に触れられることも多くありました。来日した海外からのメディアや関係者たちも、各地を訪れ、日本の文化を楽しんだようです。元イングランド代表選手が回転寿司店での自動運搬レーンのことをツイートするや、「スシトレイン?」などと絶賛の声とともに拡散されたといったエピソードも。ヘルシーで美味しいイメージのあった日本食に、スピーディーさとエンターテインメント性が加わったように見えて話題を呼んだのでしょう。取材に来た各国記者たちには、片手で食べられるおにぎりやサンドイッチが、味はもちろん、種類の豊富さでも好評だったようです。
大会が、日本の良さ、日本人らしさを広めるための良い機会となったことは疑いようがありません。また、もう一つ評価したいのが、こうして評価されたものの多くが、私たちにとっては日常にあるものであり、日頃から当たり前にやっていることであるというところです。来年開催されるオリンピック・パラリンピックを東京に招致する際のキーワードは「おもてなし」でしたね。おもてなしとは、文字通りに「オモテがないこと」であるとも言えます。表がなければ裏もありません。特別な何かをすることではなく、ありのままの姿でいることこそが、本当の「おもてなし」ということです。そういった意味で、今回のラグビーワールドカップで評価されたことの多くが日常的なものであったのは、意味のあることではないでしょうか。
ラグビーワールドカップ2019がラグビー1競技、参加20カ国であったのに対して、2020東京オリンピック・パラリンピックは33競技339種目、参加する国と地域は205が見込まれています。当然、選手や関係者、メディアや観客も含めて、さらに多くの人たちが日本を訪れることになるでしょう。多様性の中で日本人らしく振る舞うこと、おもてなしの神髄が問われますね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。