『ちょっと、おじゃまします』 ~「デイ骨(こつ)院」を提唱~ 大阪市生野区〈北川整骨院鍼灸院〉
2020.01.24
できるだけ長く元気でいて、自宅で自立した生活を送りたい――そんな高齢者の願いをかなえて地域に貢献したい。北川肇先生は柔整と鍼灸だけでなく、主任ケアマネジャーと介護福祉士、社会福祉士の資格も取得。鍼灸整骨院と、入浴と食事は無く機能訓練に特化したデイサービスを運営し、ケアプランセンターも開設しています。 (さらに…)
『ちょっと、おじゃまします』 ~「デイ骨(こつ)院」を提唱~ 大阪市生野区〈北川整骨院鍼灸院〉
『ちょっと、おじゃまします』 ~「デイ骨(こつ)院」を提唱~ 大阪市生野区〈北川整骨院鍼灸院〉
2020.01.24
できるだけ長く元気でいて、自宅で自立した生活を送りたい――そんな高齢者の願いをかなえて地域に貢献したい。北川肇先生は柔整と鍼灸だけでなく、主任ケアマネジャーと介護福祉士、社会福祉士の資格も取得。鍼灸整骨院と、入浴と食事は無く機能訓練に特化したデイサービスを運営し、ケアプランセンターも開設しています。 (さらに…)
今日の一冊 どこからが病気なの?
今日の一冊 どこからが病気なの?
2020.01.24
どこからが病気なの?
市原 真 著
ちくまプリマー新書 924円
病気と平気の線引きはどこにあるのかと問われた時、なんと答えるか。「線は引けない、病気であっても平気なことはあるから」という答えは医学的に正しい。けれど実際には、患者が知りたいのは「どんなサインが出たら病院に行けばいいのか」で、「医学でしかない」答えは不十分。病気とは何か、健康とは何か。病気と気持ちとの関係は――。SNSで「ヤンデル先生」として人気を博す病理医が、中高生読者を想定したレーベルのカラーに合わせ、平易な文体で病気と健康について解説。待合室で気軽に手に取れる一冊。
『医療は国民のために』286 柔整・あはきが生き残るには「助産師にならえ」
『医療は国民のために』286 柔整・あはきが生き残るには「助産師にならえ」
2020.01.10
私の周囲には「治せる柔整師・あはき師」が大勢いるが、その施術者の療養費申請でさえなかなか支給されなかったり、整形外科からもバッシングを受けたりと、療養費に対する風当たりが一層厳しくなってきている。食べていけないから、業界を去る者も当然続出する。一方、治療技能に本当に秀でた者は、保険医療機関にその活躍の場を広げていけるのではと私は考えている。なぜなら、助産師がそのような過去を通ってきたからだ。
かつて、戦前はもちろん、戦後の一時期まで大いに活躍したのが「産婆さん」だ。独立開業で院を構え、出産時の取り上げや出産前後における妊産婦のあらゆるお世話をした。ただ、産科婦人科学の発展とともに戦後はその姿が消え、代わって助産師が国家資格として誕生した。産科において、プロフェッショナルの専門職として助産師は生まれ、現在では開業もできるが、その多くは保険医療機関における助産行為に限局したパラメディカルスタッフとして、産科医の信頼に応えながら業務に就いている。看護師よりも上級の資格と位置付けられていることから、看護師が併せて助産師の資格を取得するのもうなずける。そもそも、柔整師やあはき師が行う施術が治療行為というのであれば、医療機関で行われてはいけないはずがない。むしろ、積極的に医療機関内で行われるべきだと考える。かつて、鍼灸施術は医療機関で行われるものではないとされ、もし行われたなら罰するとか、治療費を有料で徴収したなら罰するとか言われてきた。しかし、時代は既に大学病院の付属医療機関で、医師の指示の下、何のおとがめもなく施術することができ、しかも混合診療禁止の概念に捉われることなく、有料で施術を行える医療機関が20以上も存在しているのだ。
そう考えると、今後、保険医療機関内で柔整師とあはき師は正々堂々と自らの免許資格をもって、医師の指示の下に施術を行い、その対価として病院から給与をもらうことを目指すべきだ。さらには、保険医療機関が柔整・あはきの施術メニューで診療報酬明細書を請求する。言い換えれば、使い勝手の悪い療養費からの脱却であり、診療報酬に正当に組み込まれた柔整・あはきの施術料の獲得である。これが新たな保険請求枠の拡大ということになろう。
今やコンビニよりも多いと揶揄される鍼灸整骨院だが、養成施設の定員問題も含め、やがて常識の範囲内の数に落ち着く日がやって来る。療養費でまだ何とか食いつないでいける現状において、いち早く助産師のたどった道に学び、医療機関内で堂々と働ける環境づくりに着手すべきである。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』21 三十周年
連載『不妊鍼灸は一日にして成らず』21 三十周年
2020.01.10
新年です。令和として初めてのお正月。当院は、平成で初めてお正月を迎えた1990年に開院し、今年で三十周年です。開業した頃は「不妊」という言葉など聞いたこともありませんでした。今から三十年後に「不妊」という言葉は存在しているのでしょうか。これから妊活患者さんは減り始めます。第二次ベビーブームの昭和40年代生まれの人たちが次々と生殖年齢を通過しているからです。実際に45歳ともなると性交渉での妊娠率は周期当たり1割以下となり、逆に流産率は9割になります。つまり夫婦生活による周期当たりの生産率は1%ぐらいになるわけです。第一次ベビーブームは昭和22~23年に訪れ、第二次ベビーブームの昭和40年代後半には毎年180~200万人が生まれました。本来なら、平成に入って第三次ベビーブームが到来するはずだったのに、昨年の出生数は90万人を下回ってしまいました。たった数十年で半分以下です。
少し記憶をたどってみましょう。第二次ベビーブーム世代の結婚適齢期である昭和末期から平成初めまで、日本はバブルに踊りました。就職1年目の冬の賞与の封筒が「立った」と言われた時代。社会に出てすぐに大金を手にした世代です。海外旅行が当たり前になり、ブランド物が巷にあふれ、「男は三高(高学歴・高身長・高収入)でないと価値が無い」と言われました。第二次ベビーブームの前半世代はこれに該当します。結婚なんて後回しでいいんじゃない? なんて思想がはびこりました。その直前まで、失礼なことに女性をクリスマスケーキになぞらえて「24歳までに結婚すべき」などと揶揄していたのに、この頃から一気に結婚年齢が後退しました。
その後バブルは弾けて一気に不況に陥ります。バブル期に家を購入した人は大きなローンを抱えて自己破産が相次ぎました。物価はすぐに下がらず、特に地価は元に戻り切らず、家を買うのに共働きが当たり前になりました。次に訪れたのは職場における男女平等運動です。女性にも男性並みの給与と待遇を、という動きは、男女雇用機会均等法の制定につながります。待遇が同じである以上、女性も男並みに働かねばならなくなりました。晩婚の夫婦がフルタイムで働き、疲れて帰ってきて、夫婦生活どころではありません。子供を作る環境整備に完全に逆行しています。お父さんが一人で働いて一家を支えて家を買って、など今となっては夢のような話です。大学生の奨学金受給率も上昇の一途をたどっています。彼らは数百万円の借金を背負って社会に出ます。35年前に私が卒業した法学部は4年間で学費が150万円ほどでした。今、学費は約4倍に膨れ上がっていますが、世間の給与は2倍になっていないのです。この賃金上昇をはるかに超える学費の高騰は異常です。子供を授かったら18年後にはこの恐怖が待ち受けています。家計を圧迫する要素は山ほどあり、共働きでも子作りをちゅうちょしてしまいます。この数十年、日本は舵取りを間違ったと思います。
さて、昨年の当院は新患数230人で、うち紹介患者は96人。ベッド2台全て自費治療で来院数延べ6,584人。SNSや口コミサイトは利用せず、ホームページは片手間に管理。ブログも4月以降ほぼ休止。新患数はこの10年完全に横ばいですが、来院数は増え続けて約2倍です。これは患者さんの反復と再診が増えているからです。安定は勉強と研究に集中できる環境をもたらします。目先の営業や広告に執心するのではなく、特に若い世代は10年、20年後を見据えた計画を立て、令和の時代を駆け抜けましょう。
【連載執筆者】
中村一徳(なかむら・かずのり)
京都なかむら第二針療所、滋賀栗東鍼灸整骨院・鍼灸部門総院長
一般社団法人JISRAM(日本生殖鍼灸標準化機関)代表理事
鍼灸師
法学部と鍼灸科の同時在籍で鍼灸師に。生殖鍼灸の臨床研究で有意差を証明。香川厚仁病院生殖医療部門鍼灸ルーム長。鍼灸SL研究会所属。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』130 2020年の年頭所感
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』130 2020年の年頭所感
2020.01.10
明けましておめでとうございます。
今年は、医科等の診療報酬改定の年です。既に昨年末に、本体部分を0.55%(国費600億円程度)上げ、その一方、薬価を0.99%(国費マイナス1,100億円程度)、材料価格を0.02%(国費マイナス30億円程度)下げることが決まっています。全体では0.46%(国費500億円程度:国民一人当たり420円程度)の引き下げとなります。国民医療費全体が43兆円(国民一人当たり33万円程度)と考えると焼け石に水に感じます。診療報酬の点数を「イジる」ことで医療費をコントロールすることはほとんどできなくなってきています。やはり日本の医療は市場主導で変化していくしかありません。
企業の新規事業参入において「ヘルスケア領域」が注目されているように、ヘルスケア市場は今年もますます拡大していくと思われます。昨年から「医師の働き方改革」が医療業界以外の場でも話題となっているように、医療の持続可能性確保の戦略は「医師」をはじめとした医療従事者という人的リソースの保全に向かっており、あらゆる方面から「人的リソース」への負担軽減を目指した事業が、今後たくさん登場してくるでしょう。多くの人は人工知能などの革新的技術がその中心と思うかもしれませんが、その戦略の結果として医療周辺領域の「人的リソース」へのタスクシフティングが急激に起こることを、私は想像しています。革新的技術に支えられて「病院でしかできなかったことが、病院の外でもできるようになる」「医師にしかできなかったことが、医師でない者にもできるようになる」「薬局でしかできなかったことが、薬局の外でもできるようになる」「薬剤師にしかできなかったことが、薬剤師でない者にもできるようになる」などなど、このようなことが起こり始める年になると思います。
一方、東洋医学には受難の年かもしれません。昨年末より、漢方製剤のような一般用医薬品と同じ有効成分を含む「市販品類似薬」が公的医療保険の対象除外や自己負担引き上げなどの方向で調整に入ったとの情報が流れています。10年前にも論争となった「漢方の保険外し」です。鍼灸マッサージ・柔整も保険診療(療養費利用)がますます難しくなっていくことでしょう。今まで通りのやり方では乗り越えられないように思います。このような展望と予測からやるべきことは「凝り固まった価値観からの脱却」しかありません。
東京オリンピック後の景気衰退が危ぶまれる中、微力ながらも自分に何ができるのか改めて考えてみると、今年も今まで以上に動かなければならないなと、気を引き締められました。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『中国医学情報』178 谷田伸治
連載『中国医学情報』178 谷田伸治
2020.01.10
☆全人工膝関節置換術(TKA)の術後疼痛管理とリハビリに円皮鍼併用が好影響
南京中医薬大学・邱犀子らは、TKAの術後疼痛管理に対する円皮鍼併用の効果をランダム化比較(上海鍼灸雑誌、19年11期)。
対象=片側TKAをした60例(男24例・女36例)、平均約64.5歳。これらをランダムに、持続大腿神経ブロック(CFNB)群と円皮鍼併用群各30例に分けた。
治療法=両群にCFNBと常軌リハビリ。
<リハビリ>術後に下肢関節の屈伸など、1回30分、毎日2回。
<円皮鍼>取穴―同側の申脈・大杼・懸鍾・豊隆・風市。操作―0.2×1.2mmの円皮鍼(セイリン社製)を上述の5穴に刺入、毎日1回。
観察指標=①視覚的アナログスケール(VAS)で疼痛評価②関節の連続受動運動(CPM)最大角度③炎症などに関与するIL-6の血中濃度を、術後24・48・72・92時間などに測定。
結果=①受動運動時VAS(術後24→48→72→96時間)―ブロック群:4.4→3.5→2.6→1.6、併用群:3.3→2.9→1.9→1.5。②CPM最大角度(術後48→72→96時間)―ブロック群:49.5→68.7→73.0、併用群:58.6→76.3→85.5。③IL-6血中濃度(術前→後24→72時間)―ブロック群:171.95→400.97→228.82、併用群:163.43→303.91→225.94。
☆脳性麻痺児で円皮鍼併用療法などのコアマッスル群への影響をランダム化比較試験
遼寧省瀋陽市児童病院神経リハビリ科・斉騰澈らは、脳性麻痺児120例をリハビリ単独、リハビリ+刺鍼、リハビリ+円皮鍼按圧の3群で、コアマッスル(体幹の筋肉)群への影響を比較検討(中国鍼灸、18年6期)。
対象=120例(男76例・女44例)、月齢24~40カ月。粗大運動能力分類システム(GMFCS):レベルⅢ(歩行補助具で歩ける)73例・レベルⅣ(歩行補助具でもほとんど歩けない)47例。タイプ別分類:痙直型81例・ジスキネティック型(原文「不随意運動型」)18例・失調型3例・舞踏様アテトーゼ型(「肌張力低下型」)6例・混合型12例(分類名は日本理学療法士協会ガイドラインによる)。これらをランダムに、3群各40例に分けた。
治療法=毎日1回、週5回、計12週間。
<リハビリ>運動療法とコアマッスル安定性訓練など。毎回30分。
<刺鍼>取穴―腰陽関・命門・L2~5夾脊穴。操作―0.25×25mmの毫鍼で、腰陽関・命門は直刺10mm、夾脊穴はやや脊柱方向に斜刺10~15mm、平補平瀉法、置鍼30分。
<円皮鍼>取穴―同上。操作―長さ0.2~0.3cmの円皮鍼を置鍼24時間、その間に毎日3回(間隔は最低4時間)按圧させる。毎穴按圧1分間、按圧頻度毎分80~120回。1日1回、週5回円皮鍼を交換。
結果=①表面筋電図(sEMG)―治療後、脊柱起立筋の各項目指標は、円皮鍼併用群が他の2群より有意に高かった。②Bergバランススケール―円皮鍼併用群が他の2群より有意に高かった。③粗大運動能力尺度(GMFM)―鍼併用群・円皮鍼併用群のB座位・C四つ這いと膝立ち・D立位が、リハ単独群より有意に高く、円皮鍼併用群のB・Cは鍼併用群より有意に高かった。
結論=円皮鍼按圧併用は、常軌の刺鍼とリハビリのみより優れた効果を上げられる。
☆薬剤性便秘には円皮鍼併用が効果的
浙江省衢州市中医病院・許金釵らは、悪性腫瘍などに使うセロトニン5-HT受容体拮抗薬による便秘に常軌薬物+円皮鍼が効果的と報告(上海鍼灸雑誌、19年5期)。
対象=60例(男31例・女29例)、平均年齢68.5歳(35~82歳)。これをランダムに、常軌薬物単独群・円皮鍼併用群各30例に分けた。
治療法=治療期間:4週間。
<円皮鍼>取穴―天枢・腹結・大腸兪・小腸兪。操作―まず掌腹で患者の腹部を時計回りに約3分間按摩し、腹筋を緩める。その後、0.25×1.2mmの円皮鍼を刺し、そこを2~3時間おきに毎回1分間按揉。円皮鍼は24時間に1回交換する。
観察指標= ①ブリストル便形状スケール(BSFS)、②便秘スコア(CSS)、③QOL。
結果=①BSFS(治療前→後)―薬物群:45.8→38.2、併用群:45.4→30.2。②CSS―薬物群:12.1→9.6、併用群:12.2→7.8。
臨床効果―薬物群:治癒4例・著効8例・有効9例・無効9例・総有効率70.0%、併用群:治癒10例・著効14例・好転4例・無効2例・総有効率93.3%。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。
Q&A『上田がお答えいたします』 業界の近い将来を予測してください
Q&A『上田がお答えいたします』 業界の近い将来を予測してください
2020.01.10
Q.
最近の上田さんは「療養費は絶滅だ」と言われますが、もう少し丁寧に業界の直近の未来を予測してください。
A.
確かに私は、一昨年の療養費の大改正を柔整・あはき療養費の「絶滅の始まり」と位置付けています。柔整療養費では、「亜急性」の削除により亜急性の発生機序が外傷性と認められず、かつ慢性が支給対象外とされたことから、「関節可動域を超える外力」「捻った事実」の明確な負傷原因を徹底的に求められています。そして今後2部位、1部位にも負傷原因を求められれば、たちまち療養費請求は困難となり、現在70団体程度あるだろう療養費請求代行団体は壊滅に追い込まれること必至です。なぜなら会員が負傷原因を書けないため請求をしなくなり、手数料収入が無くなるからです。今年の料金改正に向けた議論のポイントは、①料金単価は相変わらず5円、10円アップ程度だが、一方、骨折・脱臼は引き上げが見込まれる、②2部位・1部位にも負傷原因を求められる、③毎回署名を求められる、④特定の患者には受領委任払い⇒償還払いへの移行を保険者判断で実施できる、の4点で、何のメリットも無く期待できません。
そんな中でのチャンスといえば、団塊の世代が75歳以上となる“超超”高齢化社会です。運動器の慢性疼痛患者の激増で保険医療機関は大パニックになり整形外科でも患者さんへの診察対応が困難となることが想定されます。これをどうするかです。
これら想定される環境下から見いだされる業界の直近の未来像は、開業施術所の場合、「運動器の慢性疼痛疾患患者への『自費メニュー』を主な収入源とするが、患者保護の見地から急性期は療養費を取り扱う(全部を自費にするのは施術者のエゴです)」というやり方。一方、開業以外の立場では、新たな医療提供の体制下における保険医療機関内での勤務ということで「医科の診療報酬体系での点数化の獲得(療養費から診療報酬への転換)」。具体的には「保険医療機関内でパラメディカルスタッフとの位置付けで、チーム医療の体制に組み込まれる」というものが考えられます。その最終的な在り方は、助産師のようなものかもしれません。助産師は昭和30年代には「産婆さん」という名で親しまれ、独立開業資格として活躍していました。産婦人科学の学術的な発展や産婦人科医師の充実により産科の現場も変容し、現在では、助産師は産婦人科の保険医療機関に勤務して分娩に当たっての主導的地位を確立しています。助産師と医師が一致協力して、それぞれの担当持ち分をきちんと住み分けて業務を行っているのです。柔整師もあはき師も同様に、保険医療機関においてそれぞれの担当持ち分を得て、医師等の他のスタッフと一緒になってチーム医療体制の一翼を担う形になっていくものと考えます。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『汗とウンコとオシッコと…』185 Hooker
連載『汗とウンコとオシッコと…』185 Hooker
2020.01.10
冷え込んできたとはいえ、暖冬だ。故に、血管の弛緩性の病や筋肉の弛緩性の病が多く現れる。特に末梢血管拡張型の降圧剤を内服している人など、心血管が弛緩することで神経伝達異常をきたし、遊走性の痛みを生じさせやすい。また、血管を拡張させて痛みを取る湿布などを貼り付けてしまうと、さらに弛緩がひどくなり、痛みが止まらない傾向が強い。そうなると身体は弛緩した血管の圧力を上げてパイを合わせようとして食欲が増す。ただでさえ、生理的に冬に食欲が増して圧力を維持しようとすることに加えてだから、さらに体幹部臓腑が熱弛緩状態でおかしくなっていくわけだ……。
「先生、左の肘を壊したんです。電気が走るように痛くて……MRIで骨は大丈夫と言われたんですが」
横転先生に訴えるのは、森畑の友人の勤める学校の生徒、野坂君だ。高校2年生の全国大会レベルのアマボクサーで、今や世界的に有名な井上尚弥選手に憧れてボクシングを始めたのだという。今時にしては純粋朴訥な好男子である。
「ほう、ええ身体しとるな~、ライト級くらいやな」
「そうです、58キロ級で……」
「シャツを脱いで、背中を見せてくれ」
「え、背中ですか?」
肘を診る前にそう言う横転先生に、不思議そうな野坂君。
「お前さん、これ、フックで壊したな……下半身の回転でぶち込んでるええフッカーやないか」
「え、そうです。分かるんですか~。ボディフックで痛めて……その時に強烈に電気が走って肘が上がらなくなって」
「お前さん、懸垂とか腕立て伏せの姿勢を保つことが苦手やろ……」
「え、何で分かるんですか?」
と、驚きの野坂君。
「体幹に対して肩甲骨が小さい。下半身の回転からのパンチ力の衝撃を受け止めきれんのや。手首でも肘でも拳でもどこでも壊れる状態やな」
「???」
「腕立て伏せの姿勢をして腕を曲げて上体を上げてごらん。わしが指一本で身体を上げれなくするから……」
横転先生が腕立て伏せ姿勢を取る野坂君の肩甲骨の下角だけ人差し指で抑え込んだ。
「上がりません。力が入らない……」
「こんな感じな。骨が小さいから、背中の筋肉をもっと付けんと、また壊れる。今日は肘の痛みは取ったげるけど、基本的に1カ月はミット打ち厳禁。壁に拳を当ててフックの姿勢で壁を押してくれ。それでその痛みを覚えといてくれよ」
「はい……痛ぁ~、電気走ります」
「よし、今から調整するからな」
と治療を始めた。肘は触らずに、最後の最後に肘を触るからと言いつつ、およそ30分後。「最後、痛いぞ」と言いながら太めの鍼で肘内側から外側に向け斜めに入れて単刺した。悶絶しながら「痛い……とこ……です」と答える野坂君。
「衝撃で緩んだ所を締めた。もう一度、壁をフックの姿勢で押してごらん」
「痛くありません」
「当たり前や」
当然のように言う横転先生だった。
【連載執筆者】
割石務文(わりいし・つとむ)
有限会社ビーウェル
鍼灸師
近畿大学商経学部経営学科卒。現在世界初、鍼灸治療と酵素風呂をマッチングさせた治療法を実践中。そのほか勉強会主宰、臨床指導。著書に『ハイブリッド難経』(六然社)。
連載『医療再考』11 ICTとスポーツ医療・鍼灸治療
連載『医療再考』11 ICTとスポーツ医療・鍼灸治療
2020.01.10
ICT環境の整備によって、医療だけでなく、我々の生活は一変します。特に今春からサービスが始まる第5世代移動通信システム(5th Generation:5G)の普及は大きな転機になるでしょう。
例えばアメリカのプロスポーツでは、選手のスポーツウエアや靴、腕時計などに心拍数や発汗量、行動量計などのセンサーを付けて状態をリアルタイムで把握し、どのような状態になるとパフォーマンスが低下したり、怪我をしやすくなるのかのデータを集めています。それをAI解析することで、選手の起用や交代時期まで正確に判断できるようになります。これからのスポーツトレーナーの仕事は怪我を治すことではなく、怪我をさせないためにビッグデータをどのように解析するのかに変化していくでしょう。そのデータの中に我々の東洋医学の発想をどれだけ組み込み、ビッグデータ化できるかが、今後スポーツで東洋医学の考え方が生き残っていけるのかの分かれ道です。そこで我々は、西洋医学とは異なる視点の情報を収集するためのアプリ「YOMOGI」を一部改編し、スポーツ選手専用アプリ「MY TRAINER(https://mytrainer.kenko1192.com)」を開発。競技スポーツや健康スポーツのデータを本大学のスポーツ選手やスポーツジムと提携することでビッグデータ化し、怪我予測や健康予測に役立てる取り組みを始めています。怪我をしたり記録が伸び悩んでいる選手の多くは、主観的な健康観と客観的な健康観にずれがあります。その差を埋めるために最適なトレーニングやセルフコンディショニングを、体調やスポーツの成績を軸に解析しています。さらに、これらのデータとウエアラブルから得られる生活ログとの関連性を調べ、練習や試合以外の選手の生活管理も試みています。アプリやウエアラブルから記録されたデータとICTを連携させられれば、AIが、試合で成績を収めたり健康でいられたりするための分析を行い、風呂や部屋の温度、照明の光量、起床時間まで、最適な環境をアシストしてくれることになるのです。最終的に医療の世界で患者のコンディショニングに活用されることになるでしょう。
スポーツの形も大きく変わるでしょう。VR(Virtual Reality)技術が発展すれば、遠隔地の人とリアルタイムでスポーツが行えるようになります(Vスポーツ)。世界中の大会にいつでもどこでも、自分の最適な環境下で参加できることから、日頃の体調が重要となります。先進国で進む少子高齢化に伴う競技人口の減少からも、VRを駆使することで障害や年齢の垣根を越えたユニバーサルスポーツが主流になっていくものと思われます。そうなると、体力よりも戦術が大きなウエートを占めることになり、必要な能力やコンディショニング法も大きく変わります。
このように、医療の一歩手前にある健康やスポーツも、その形を大きく変えようとしています。そんな中で、東洋医学や鍼灸は何を準備し、何を提供していけばいいのかを真剣に考えなければいけない時期になっています。
【連載執筆者】
伊藤和憲(いとう・かずのり)
明治国際医療大学鍼灸学部長
鍼灸師
2002年に明治鍼灸大学大学院博士課程を修了後、同大学鍼灸学部で准教授などのほか、大阪大学医学部生体機能補完医学講座特任助手、University of Toronto,Research Fellowを経て現職。専門領域は筋骨格系の痛みに対する鍼灸治療で、「痛みの専門家」として知られ、多くの論文を発表する一方、近年は予防中心の新たな医療体系の構築を目指し活動を続けている。
『ちょっと、おじゃまします』 ~「治療以外」も大切に~ 兵庫県西宮市<おひさま整骨院>
『ちょっと、おじゃまします』 ~「治療以外」も大切に~ 兵庫県西宮市<おひさま整骨院>
2020.01.10
田村嘉逸先生が柔整師の道を志したのは大学3回生、就活の時期。やりたいことに悩む中、祖母の膝痛が整骨院への通院で改善したことがきっかけでした。中退も考えたものの家族の反対を受け、まずは卒業した後で専門学校に入学、免許を取得しました。その後は、病院勤務のほか、完全出来高制の雇われ院長、立ち上げにつまずいた院を立て直す助っ人スタッフや、複数の院を統括するスーパーバイザーなど様々な勤務形態を経験。そんな中で学んだのは、「治療以外のこともとても大事」ということ。路上から院内の様子がうかがえるように、かといって奥の奥まで見えるのではいけない、見える範囲に複数のスタッフがいては暇そうに見える、施術者に自信が満ちていなければ再来院率は如実に下がる――失敗例を含めた多くの現場で、ノウハウを積み重ねてきました。
1年前、居抜きの院で開業するに当たっても、多様な視点から整骨院の経営を見てきた経験を生かし、まずこだわったのは内外装。入口の壁を取り払ってガラス張りにし、視線を遮るマット加工の高さもセンチ単位で細かく指示。キッズスペースを増設したほか、天井の照明を大幅に増やし、院内を明るい印象にしました。治療技術については「できて当然の施術を当たり前にやるだけ」と考える一方、「患者さんを家族のように考えて親身に接する」ことを信条にしているという田村先生。SNSやHPは用いていないものの、口コミだけで、1年で来院数を2倍ぐらいに増やし、毎日25人ほどの患者さんを診ています。
現在、スタッフは一人で、2日以上の連休は正月だけ、昨年末は50連勤超えだったというハードスケジュール。「特別な技術がない自分に出来るのはひたむきに働くことだけです」と話す一方、将来的には院を任せられる人材も雇い入れ、友人の施術者と共に沖縄で治療院を開きたいという夢も語ってくれました。
田村嘉逸先生
平成21年3月、明治東洋医学院専門学校卒業。同年、柔道整復師免許取得。平成30年開業。35歳
今日の一冊 病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ
今日の一冊 病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ
2020.01.10
病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ
木村 知 著
角川新書 924円
「カゼ薬のCMのキャッチコピーは真っ赤なウソ」「早期のインフルエンザ検査は無益」「皆勤賞やめませんか」――内部告発を糾弾されたことを機に大学病院を辞して以来、在宅医療に従事する医師の著者が、インフルエンザ流行の原因を「風邪でも休めない」日本の社会に求め、舌鋒鋭く医療界のタブーに切り込んでいく。昨今叫ばれがちな「健康自己責任論」や医療費亡国論の問題点、医療現場の労働問題などにも触れるほか、現政権の医療政策批判にも及ぶ。互いを尊重できる「困ったらお互い様の社会」へ向けた提言。
『医療は国民のために』285 「非医業類似行為」を持ち出して、何がしたい?
『医療は国民のために』285 「非医業類似行為」を持ち出して、何がしたい?
2019.12.25
11月に広告ガイドライン案が厚労省から提示され、今年度末のガイドライン策定に向け、「あはき師及び柔整師等の広告に関する検討会」もいよいよ詰めの作業といったところだろうか。ここまで、施術者側と医師会・保険者側の言い分は相容れず、電話相談で日々患者の苦情等に接している患者団体からは柔整・あはき業界に否定的な発言も飛び出している。多少は致し方ないのかもしれないが、ガイドライン案で急に持ち出された「非医業類似行為」だけは絶対に許してはならないと警告しておきたい。
厚労省の考えでは、「非医業類似行為」でアロマテラピー、リフレクソロジー、整体、カイロプラクティック等を一括りにし、無資格者もガイドラインに適用して、決して放置などしていないと主張したいのだろう。そして、もう一つの狙いとして、あはき・柔整こそが「本当の医業類似行為」であると特定したいのだろう。
だが、私が過去に何度も述べてきたように、医業類似行為とは「よく分からない温熱療法や電気的物理療法」などを指し、「インチキ療法やペテン、まがいもの」といった侮蔑的といえる意味合いが強いものだ。少なくとも国家資格者の業務を指す訳がない。
しかも、本来あはきと柔道整復は「医業の一部」であって、医師法上は医師が行う医業において、柔整師やあはき師がその本来業務を行うに当たっては「限定解除」されているのである。さらに言えば、整体やカイロプラクティックは、法令上は「あん摩・マッサージ・指圧」の「指圧業務」であり、整体師やカイロプラクターがあん摩マッサージ指圧師の免許を取得しさえすれば、何の問題もなく施術行為ができるのだ(免許を持たず、整体・カイロを行うことを正しくは「無資格施術」という)。
ところが、整体師やカイロプラクターは免許を取りたがらず、国も野放しにしてきたことで、無資格問題が大きくなり、ここにきて、今度は「非医業類似行為」を定義したいという。広告検討会は歴史的な沿革を何も知らない方々の集まりなのであろうか。
ちなみに、「医業類似行為」と似たような用語で「医療類似行為」がある。こちらは医療を行うのは「医師のみ」であるが、医師が全てを行うのは事実上困難であることから、国家資格を得たそれぞれの専門職スタッフがパラメディカルとして医師を支え、医師の指導監督の下、医療を提供するとの考えに基づき定義されている。あはき・柔整は、独立開業資格であって、医師の指導監督を受けないということが前提だが、「医療類似行為」とされることはあろう。
しかしながら、本当に「非医業類似行為」という造語を定義するのであろうか。「末代までの恥」となってしまうことを案じてやまない。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』129 資格に固執しても将来の保証は無い
連載『織田聡の日本型統合医療“考”』129 資格に固執しても将来の保証は無い
2019.12.25
先日、晴眼者のあん摩マッサージ指圧師養成施設の新設を規制する法律の合憲性を争う裁判で、「合憲」という判決が出ました。31万人ほどいる視覚障害者の就労に加え、視覚障害者の有資格者を保護するための判決であり、東京地裁の判断に妥当性は感じますが、今後の業界の発展を考えるといろいろ意見もあるだろうなと思います。
私としては、視覚障害者の就労が「あはき業に依存しすぎている」のが問題ではないかと率直に感じています。あはき業全体における視覚障害者の割合が現在20%程度まで減少してきていて、晴眼者との競争が取り沙汰されていますが、今後、療養費による施術が認められにくくなる保険制度の環境変化に加え、リラクゼーション業も市場が拡大しています。このような状況下では新設の規制は現実的でなく、以上の点を鑑みると、視覚障害者の就労先をあはき業以外へと職域拡大する方向に力を入れた方が良いように感じます。 また、人工知能やICTなどの技術革新により、職業そのものの存続さえ危ぶまれている昨今、新規産業の創出を視野に入れながら戦略的・大局的に物事を捉えるべきで、資格にこだわり続けるのもいかがなものかと考えます。技術は制度を変えることが可能で、市場も制度を変えることが可能です。資格は市場と連携しなければ、保有する意義もなくなってしまうでしょう。
以前、視覚障害のある方がスマートフォンを操作するところを見たことがありますが、その速さたるや驚きました。かつて「視覚障害は情報障害である」という言葉を聞いたことがありますが、スマートフォンにはデフォルト(標準装備)で画面に表示された文字を読み上げる『VoiceOver』などのアクセシビリティー向上の機能を搭載していて、視覚障害者を情報障害から救ったとさえ言われます。技術を用いれば視覚障害者の職域をさらに拡大することは可能になってきているのです。
職域拡大という点で考えると、晴眼者の皆さんも同様かもしれません。資格は必ずしも将来の職を保証してくれません。技術によって市場は変わりますし、この医療財政苦難の時代に、今まで通りの考え方では生き残ることはできないでしょう。私の専門とする漢方業界ですら保険から外される可能性があります。今後の日本医療の持続可能性を考えると、医療機関と連携を取りながら、医療機関に患者さんが来院する手前で何かしらの手当や処置をするといった「新しい職業」を生み出すべきではないかと思います。果たして、ここへあはき・柔整業界が新規産業として入り込めるか。可能性はあると思います。温故知新で過去の知恵は重要ですが、根本的な考え方の転換が今求められていると感じます。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』177 ランニング後に認めた下腿内側部の疼痛に対するエラストグラフィー観察
連載『柔道整復と超音波画像観察装置』177 ランニング後に認めた下腿内側部の疼痛に対するエラストグラフィー観察
2019.12.25
宮嵜 潤二(筋・骨格画像研究会)
Real-time Tissue Elastography(RTE)とは「生体の硬さ情報」を画像化する技術である。RTEは、体表からの圧迫操作に対する組織の変形率(変位の空間微分)を「歪み画像」として撮像領域内で相対的に表示する方法であり、組織の弾性分布を反映しているとされる。物理的に、歪みは硬い組織ほど少なく、軟らかい組織ほど多くなるが、RTEはこの相対的な硬さを半透明化したカラーの歪み画像としてBモード画像上に重ね合わせることで、生体内の相対的硬度分布をリアルタイムで可視化することができる1)。
今回、急なランニングの翌日、右下腿内側に痛みを認めた後、特に処置もせず2週間経過してもなお運動時疼痛を示す症例に対して、組織の硬さを計測できるRTEで観察を試みた。
【現病歴】
43歳、男性。20XX年1月中旬、普段やっていなかったランニングを行った際、右下腿後面に違和感を認めたが、特に処置しなかったところ、翌日同部位の痛みを強く感じた。内出血や熱感の所見は特に認めず、歩行時痛のみであったため経過観察するも、痛みの改善が無かった。そこで症状出現から2週間後にエコー(HI VISION AVIUS、日立アロカ社製)による検査を試みた。【写真】は疼痛部位とプローブ長軸走査の位置である。検査時は、右下腿内側後面には熱感は無いが圧痛があり、立位時および足関節伸展時に同部位の痛みが増悪した。患側と健側の下腿腓腹筋内側頭の状態を、RTEで比較した【画像①、②】。
【結果】
患側は、健側に比べて赤領域の増加が観察され、疼痛部位では筋膜周囲で特に赤領域が見られた。赤領域の増加は歪み率の上昇を意味し、硬度の低下を示唆するものと思われる。軟部組織損傷時には、筋損傷により筋線維の緊張が低下し、弾性力上昇を示すことが辻村らによって報告されている2)。本症例においてRTEにて観察された赤領域の増加は筋損傷を示唆するものと思われ、特に筋膜周囲に特徴的な筋損傷である可能性が考えられた。
【結語】
軟部組織損傷では筋および筋膜周囲に硬度低下を示すことが示唆された。RTEは内出血を有しない軽度の筋損傷でも観察が可能だと考えられた。
1) 柳澤修:超音波エラストグラフィがもたらす情報. Innervision. 2012; Vol27(3): 45-8
2) 辻村ら:エラストグラフィーを用いた下腿肉離れの診断. 映像情報Medical. 2007; Vol. 39(6): 628-9
Q&A『上田がお答えいたします』 1部位目からの負傷原因記載が義務化されると請求代行団体は潰れる?
Q&A『上田がお答えいたします』 1部位目からの負傷原因記載が義務化されると請求代行団体は潰れる?
2019.12.25
Q.
今後の柔整療養費検討専門委員会での議論で1部位目からの負傷原因の記載が義務化されたら、療養費の請求代行団体は少なからず潰れていくのではないでしょうか。
A.
昨年の療養費検討専門委員会での議論を経て「亜急性の負傷」としての捻挫は一掃されてしまいました。亜急性が削除されたことから、これをもって捻挫の定義は柔道整復と外科・整形外科との認識が同一とされましたから、3部位以上請求する場合には、支給申請書に関節等の可動域を超えた捻れや外力によって身体の組織が損傷を受けた状態であるということを明記しなければなりません。従来まで発生機序としての亜急性の負傷が原因と認知されていたからこそ、反復継続した微々たる外力によるものやオーバーユースも全て支給対象となっていたところを、健保組合等の保険者は「通知にこれらを支給してよいと書いていない」と不備返戻してきています。亜急性を削除した当時の厚労省の担当室長が「支給対象は今まで通り変わらない」と言っていても、「療養費の支給対象の範囲の変更はない」との事務連絡があっても意味をなさず、審査会からも大量に返戻されています。
インフラや国民の栄養状態、自動車の安全性向上などから、明確な急性で新鮮性の捻挫は減っているはずです。保険者に言わせれば「そんなに皆さんあちこち捻挫などしない」のです。一方で、不正請求をしていた一部の柔整師にも自粛の動きが見られます。ただ、患者さんの保護の見地から、実際に急性の外傷性であれば療養費で取り扱うべきですから、「全部が全部自費施術」というのは施術者側の身勝手であるとは言えますが。いずれにせよ、今後は2部位でも1部位だけでも患者照会が実施され、患者さんの回答に「自然に痛くなった」「1年以上前から調子が悪い」「ちょっと揉んでもらった」との記載があれば、これを理由に不備返戻されます。さらに部位数に関係なく負傷原因の記載を義務付けられたなら、多くの柔整師は療養費の請求を諦めることになるでしょう。そうすると、会員からの療養費支給申請の大幅減に耐えられなくなる団体が出てきます。あくまでも私見ですが、最終的には「2部位目から」で議論は決着するでしょう。それでも療養費の申請は激減し、そしていずれは本当に1部位目からとなってしまい、申請そのものの「消滅」に至るということになるとすれば、あなたのご指摘通りですね。
今後を見据えて、各施術者団体には、開業から店舗展開・物品販売に至るまで施術所をトータルパックで支援する、自費メニューの指導と導入を手がける、フランチャイズ事業展開のノウハウを提供するなどして、単なる「療養費請求代行団体」からいち早く脱却していくことが求められるでしょう。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。
連載『食養生の物語』79 餅は餅屋
連載『食養生の物語』79 餅は餅屋
2019.12.25
いよいよ年の瀬ですね。来年の話をすると鬼が笑うと言いますが、新年の縁起物といえばお餅。お餅のように寿命も長く伸び、切れにくくなるようにとの願いが込められています。もっとも、最近の餅は米粉から生産されるようになり、さほど伸びないものも。かつては、もち米を蒸してからついてできたものが餅、米粉に水を加えて練って作ったものは団子と区別していました。餅は粘りがありくっつきやすいので、きな粉や餡で外側を包むようにし、団子はくっつきにくいので餡を具として内側に包んでいたとも言われます。
新年に神仏に供える「鏡餅」は平安時代から存在していたようですが、現在のように、床の間など玄関から離れた部屋に飾るようになったのは室町時代頃からのようです。鏡餅の名は、昔の鏡の形に似ていることから。また、二段に重ねるのは、陰と陽を意味するとの説が有力です。「医は仁術」という言葉の「仁」の字は、人が陰と陽の二物に寄り添う姿と言われていることと併せて理解しておきたいところです。飾り始める時期に決まりはありませんが、一般に末広がりを意味する「八」の縁起が良く、12月28日が最適といわれます。「苦」を連想する「九」の意味で29日を避けるところがある一方、29を「福」と読んで歓迎する地方もあるようです。
地域差では、西の丸餅と東の角餅(切餅)。境界はちょうど岐阜県の関ケ原辺りのようです。関西では、丸く円満に、カドが立たないようにと縁起を担ぐ一方、角餅は「のし餅」とも呼ばれることから、相手を倒す(のす)という願掛けで関ヶ原の東軍に歓迎されたとの逸話も。ただ、実際のところは、人口が増えた江戸では一つひとつ丸めるよりも大きな餅を切ってしまう方が量産しやすかったというのが真相のようです。最近、角餅が主流になってきていることからもうなずけますね。
餅を平らに伸ばして焼いたものが煎餅(せんべい)の始まりと言われています。現代では「米菓」に分類され、米粉のほかにもデンプン粉が使われ、味付けをしたものが多くなっています。ちなみに「サラダせんべい」とは焼いた後にサラダ油を絡めているもので、生野菜の成分は入っていないので間違わないようにしましょう。
毎年正月には、餅を喉に詰まらせる事故のニュースを聞きます。それでも、こんにゃくゼリーのように警告表示が義務化されたり、流通を規制されたりはしていません。餅の窒息リスクが既に広く認知されていることもありますが、それだけ愛され、伝統食として残されていく餅の偉大さとも言えますね。
来院した患者さんに、「餅は餅屋やからねぇ」なんて言うことがあります。長引く痛みに耐え、自分でなんとかしようとしたけど諦めて来院。あっさりと楽になり、「早く来れば良かった」なんて会話の中で出てきます。どんな分野でもその道の専門家に頼るのが良いという例えですね。
【連載執筆者】
西下圭一(にしした・けいいち)
圭鍼灸院(兵庫県明石市)院長
鍼灸師
半世紀以上マクロビオティックの普及を続ける正食協会で自然医術講座の講師を務める。
連載『あはき師・絵本作家 かしはらたまみ やわらか東洋医学』14 「死ぬってどういうこと?」③
連載『あはき師・絵本作家 かしはらたまみ やわらか東洋医学』14 「死ぬってどういうこと?」③
2019.12.25
魂と魄が体から出た後は、冷たくなって(火が帰り)死後硬直が起こりやがて解けて(木が帰り)ドロドロに溶けて流れ(水が帰り)硬い骨が残りやがてなくなり(金が帰り)全てが土になる(土に帰る)というふうに、相生とは逆の方向に回っていきます。土は、万物を生み育てる力を持っています。いつかまた、だれかの命を支える力になるのです。
【連載執筆者】
かしはらたまみ
あん摩マッサージ指圧師・鍼灸師
自身の子どもに東洋医学の概念を伝えるため「絵本」という表現を選択。色粘土を使った独自の手法で絵を描いている。これまでに『陰陽五行 まわるき』『おなかがいたくなるまえに』を自費出版し、ブログで『やわらか黄帝内経素問』も連載。絵本の購入はネット通販サイト・BASE「やわらか東洋医学」(https://touyouigaku.thebase.in/)から。
『ちょっと、おじゃまします』 ~包帯にこだわりあり~ 大阪市西成区<くりもと鍼灸整骨院>
『ちょっと、おじゃまします』 ~包帯にこだわりあり~ 大阪市西成区<くりもと鍼灸整骨院>
2019.12.25
万人向けに作られているサポーターよりも、個々の患者さんの状態に合わせてフィットさせられるからと、包帯を多用している柔整師の栗本秋先生。自身も敏感肌なので患者さんには肌が弱くないか必ず尋ね、かゆくなったりしないよう巻き方も工夫。熱感、腫脹がある時はテーピングだとかぶれやすいので、やはり包帯を使うといいます。
昨年他界した父親も開業柔整師で、院に併設した柔道場の主でもありました。当然のように、栗本先生も柔道一直線。大学まで続けました。道場では門下生のケガを父親が治療していましたが、我が子の軽い捻挫程度なら少し手当てをして「あとは自分でやっとき」と放任。父親の見よう見まねで包帯を巻いているうちに「楽しくなってきた」といいます。学校の柔道の部活でも、先輩や後輩の包帯の巻き直しをしていて好評だったとか。大学卒業後、柔整師を目指すのですが、意外なことに父親は大反対。「女性が開業するとなかなか結婚できません。父は古いタイプの人だったので……」と振り返ります。賛成してくれていた母親と、父親の友人たちの後押しもあって専門学校に入学。既に別の場所で開業していた兄の院をはじめ、複数の院で修業しました。
独立後、一時は東京で開業するも諸事情により帰阪。紆余曲折ありましたが、現在は専門学校の同級生で鍼灸師・柔整師の溝口有亮先生と共同で院を営んでいます。東京時代は社団のボランティアでマラソンの救護に当たったり、大阪に戻ってきてからは知人が帯同する柔道大会の救護に参加したりと、スポーツに関わる外傷を診るのが好きだという栗本先生。ただ、開業して間がない今は患者さんの多くは近所の高齢者とのことで、集患のプランを模索中です。
現在の整骨院は父親の院の跡地にあり、柔道場は兄が引き継いでいて健在。栗本先生も通ってくる子どもたちに柔道を教えています。
栗本 秋先生
平成14年明治東洋医学院専門学校柔整学科卒、同年柔整師免許取得。43歳
今日の一冊 精神科医の話の聴き方 10のセオリー
今日の一冊 精神科医の話の聴き方 10のセオリー
2019.12.25
精神科医の話の聴き方 10のセオリー
小山文彦 著
創元社 1,650円
「困った」「どうしよう」「つらい」「憂鬱だ」――。身近な家族や友人、職場の同僚からこのように言われたらどうするか。悩む心と言葉を、どのように受け止めたらよいのか。「対話の『場』を決める」「素直に受け止める」「『専門家』風にならない」「理解と示唆を急がない」といった10の基本原則を、労災病院などでストレス関連疾患の診療を経て、厚労省の委託事業や保健相談員など多彩なフィールドで活躍してきた精神科医が提示。それらに基づいた具体的な対応を、様々な場面ごとに紹介する。
『医療は国民のために』284 「柔整ガイドライン」の構築が求められる
『医療は国民のために』284 「柔整ガイドライン」の構築が求められる
2019.12.10
施術所広告に関する「ガイドライン」が、今年度末にも策定される見通しという。遅れに遅れた感があるが、それでも策定できるのであれば良いことなのだろう。医療分野において「ガイドライン」とは、最新の臨床研究の結果を踏まえた上で、その時点で推奨される治療法・範囲などがまとめられた文書のことだ。医療行為として、一般的で、かつ最善とされる診療方策が提示されているものといえる。
ところが、柔整施術は実際に患者に施術を行うという点で、常に臨床実態が伴っているものの、そのガイドラインが存在していない。実に驚くべきことだ。公益社団法人日本柔道整復師会(日整)の広報誌等には、療養費の支給対象となっている「骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷」が柔整師の業務範囲であるとの記述が確認できるが、私からすれば、それは建前であり、実態に全くそぐわない机上の空論であると言える。なぜなら現在、整骨院で骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷の施術が広く実施されているとは思えないからだ。もちろん急性期の捻挫・打撲の患者は来院しているが、その他の多くは運動器に係る慢性疼痛疾患ではないのか。だからこそ、柔整業界の先人・先達は「亜急性負傷」の定義にこだわり、発生機序が反復・継続・酷使(使いすぎ、オーバーユース)も柔整施術として堂々と治療がなされてきた。今もなお、これらは柔整師の業務範囲であることに疑いはない。昨年、療養費の支給対象として「慢性が除かれる」と明記されてしまったが、柔整師が運動器の慢性疼痛疾患等を自費で手がけるのは何ら問題ないではないか。
一方、広告に関するガイドライン策定でも議論になっている「整骨院での整体・カイロプラクティック・アロマテラピー・リフレクソロジー等」については、それぞれの施術や行為に基本的な概念なり、定義、考え方が存在するのだから、これらは明らかに「柔道整復」ではない。その上、施術所には「専用の施術室」と法令上の規制がある。法令では「柔道整復師とは、厚生労働大臣の免許を受けて、柔道整復を業とする者をいう」ともあるが、それでは柔整とは何なのか? 実のところ、明快に答えられる言葉は存在しないのだ。そう考えると、今まさに「柔道整復に関するガイドライン」の策定が求められる。柔整師がやらなければならないこと、そして、やってはいけないことについてガイドラインを構築し、明らかにするのはどうだろうか。これは必ずしも療養費という保険取扱いと一致しなくともよい。例えば、骨盤矯正は柔整師の業務なのか? また、物理的な電療を施すのが柔整なのか? 後者については、電療施術一つとっても、奥行きが深く経験や実績が必要になるだろう。
世間や保険者から「柔整師は単なる“もみやさん”」などと揶揄する言葉も聞かれ、そのたびに「柔整ガイドライン」の必要性を強く感じてきた。柔整師が業を行うに当たっての当たり前の定義・考え方を早急に構築すべきだ。
【連載執筆者】
上田孝之(うえだ・たかゆき)
全国柔整鍼灸協同組合専務理事、日本保健鍼灸マッサージ柔整協同組合連合会理事長
柔整・あはき業界に転身する前は、厚生労働省で保険局医療課療養専門官や東海北陸厚生局上席社会保険監査指導官等を歴任。柔整師免許保有者であり、施術者団体幹部として行政や保険者と交渉に当たっている。