日本鍼灸師会第5回医療連携講座 腰痛治療から医療連携を考える
2024.05.24
3月31日に日本鍼灸師会の『第5回医療連携講座―腰痛の医療連携』が呉竹医療専門学校(さいたま市大宮区)とオンラインで開催、約200名が参加した。
レッドフラッグを念頭に
税田和夫氏(埼玉医科大学総合医療センター整形外科教授)は医師の目線で腰痛の診断と治療を解説した。『腰痛診療ガイドライン2019』では腰痛の85%が非特異的腰痛とされ、部位の特定にとらわれず命や重大な後遺症にかかわる疾患の可能性を検証し治療すべきと述べた。
注意すべきレッドフラッグを「FACET(椎間関節)」になぞらえ①Fracture(骨折)、②Aorta(腹部大動脈瘤、大動脈解離)、③Compression(脊髄圧迫症候群)、④Epidural abscess(硬膜外膿瘍、骨髄炎)、⑤Tumor(脊椎腫瘍、骨転移)と伝えた。また痛みが感覚と情動からなり、特に慢性疼痛においては痛覚が過敏になるアロディニアの要素も考慮すべきと語った。
医師の腰椎治療では、原則として下肢症状のない腰痛は手術しないと述べ、腰椎椎間板ヘルニアを例にフローを解説した。まずは、下肢や大腿神経の伸展テストなどで神経所見の有無を確認し、鎮痛剤や筋弛緩剤など投薬し様子をみるという。所見が認められ回復がなければ手術をする。
患者に多いのが「手術で根治できる」との誤解だと話す。腰部脊柱管狭窄症手術292例でしびれの残存率が約8割という調査結果もあり、さらにしびれ消失群に至っても、満足度が5点満点中4.1点であったと報告。「あるべき部位の切除、長い期間神経が圧迫された負荷などにより、手術で元の状態に戻るわけではない」と話した。
下肢症状がない腰痛においては治療の優劣が明らかでないといい、薬剤投与や物理療法のほか鍼灸も世界で認知されていると述べた。
山口智氏(埼玉医科大学医学部東洋医学科客員教授)は非特異的腰痛の鍼灸治療を解説した。腰痛の概念はかつて脊椎の障害だったが、現在は身体・精神・社会的要因による疼痛症候群となり鍼灸の強みが生かせる分野であると強調。
鍼灸治療の対象としては①筋・筋膜・靭帯、②椎間関節・仙陽関節、③椎間板、④神経根・神経、⑤下肢の要穴を上げた。鍼灸治療で疼痛とともに、VAS、QOLをが向上したとの研究結果なども示し、「心身一如」を裏付けた。筋筋膜性疼痛の治療の実技供覧も行った。
河原保裕氏(アコール鍼灸治療院院長)は東洋医学的な観点から黄帝内経や素問、霊枢と古典を引用し痛みを解説したのち、崑崙による膀胱経の操作から中枢部の痛みのポイントを絞り込む様子をみせた。また、圧痛や硬結でなく、愁訴が軽減するポイントを探ると教えた。
同意書を書いてもらうには?
小林潤一郎氏(小林はりきゅう院院長)は医師への紹介状や報告書の書き方を解説した。医師が同意書を断る理由は、「忙しい」「保険併給の可否をはじめ法律を理解していない」「受付で断る決まりである」など、発行する理由は様々だと報告。それをふまえ、他施設の鍼灸併用事例を上げ必要性を伝える、医師の領域である負傷名の特定をしないなど、お願い状記述のコツを伝えた。
また、在宅診療に注力するクリニックは比較的頼みやすい、新規開業時は挨拶しておくなど、依頼先探しのポイントにもふれた。施術報告書においては、医師向けの文書である意識を持ち、東洋医学の専門用語は避け、現代医学用語を用いることなど要点を解説。医療連携のための文書作成の重要性を強調し「患者の視点で鍼灸以外も視野に入れ最善の手段を考える必要がある」と訴えた。
質疑では報告書作成の際、「夜間の運動器痛の改善」を「夜間痛が取れた」など、医科に報告すべきレッドフラッグを放置したと誤解を受ける記述に注意すべきと声が上がった。また、紹介状を書きたくない理由に「たったの1,000円しか受け取れない」という医者の内情も話された。
同会の地域ケア委員会からは、菅野幸治氏(鍼灸治療楓鈴堂院長)と藤森文茂氏(日野春治療院院長)が医師や医療専門職との緊密な連携の必要性や、信頼関係の構築法などを伝えた。また、同委員会の取り組み「地域ケアZoom行脚」では、地域での鍼灸師の活躍や参入の成功例、困りごとなどを共有・意見交換していると話し、参加をよびかけた。