連載『中国医学情報』173 谷田伸治
2019.08.10
☆トゥレット症候群児童に風池穴刺鍼
上海交通大学医学院付属上海児童医学センター・余平波らは、チックのうち音声や行動を主体とするトゥレット症候群児童に対する風池穴刺鍼治療の結果を報告(上海鍼灸雑誌、19年5期)。
対象=同センター中医科の60例(男33例・女27例)、年齢4~12歳、罹患期間1カ月~4年、イェール全般的チック重症度尺度(YGTSS:Yale Global Tic Severity Scale)の軽度27例・中度16例・重度17例。これをランダムに、西医群(チアプリド塩酸塩治療)・鍼群各30例に分けた。
治療法=両群とも1カ月間治療。
<鍼治療>風池穴に0.25×25mmの毫鍼で鼻尖方向に刺入0.5寸、平補平瀉法で快速提挿捻転10回後に素早く抜鍼。1日1回、1クール1カ月、合計1クール治療。
観察指標=イェール全般的チック重症度尺度(YGTSS)。
効果判定基準=治療後と治療後半年に臨床効果を観察。「全快」:症状完全消失し3カ月間再発なし、「著効」:症状・回数が明らかに軽減し減少(70~94%減少)、「有効」:症状・回数が軽減し減少(30~70%減少)、「無効」:症状に明らかな改善なし(30%未満減少)。
結果=①YGTSSの治療前後―西医群:27.55±3.91→15.21±3.45、鍼群:28.75±4.83→8.36±2.35。②半年後の治療効果―西医群:全快2例・著効10例・有効5例・無効13例・総有効率56.7%、鍼群:全快3例・著効14例・有効5例・無効8例・総有効率73.3%。
☆排卵障害性不妊症の鍼併用治療で妊娠成功率がアップ
甘粛省白銀市景泰県人民病院・張永宏は、排卵障害性不妊症では西洋医学の排卵促進治療単独より鍼治療併用の妊娠成功率が高かったと報告(上海鍼灸雑誌、19年5期)。
対象=排卵障害性不妊症の106例、平均年齢29±4歳、平均不妊期間約3.49年。これをランダムに、西医群(排卵促進剤治療)・鍼群各53例に分けた。
治療法=両群とも、排卵促進剤治療を合計3月経周期行った。
<鍼治療>①取穴―腎兪・命門・中極・関元・天枢・帰来・三陰交。配穴:「?滞胞宮」に膈兪・胆兪、「腎虚」に志室・太渓、「痰湿内阻」に脾兪・足三里をそれぞれ追加。
②操作―0.25×25mmの鍼を使用、刺鍼後に電鍼治療機(G6805型)により疎密波・16Hzで通電。月経周期第5日から鍼治療開始、2日1回(月経期間は中止)、3月経周期治療。以上は、頼新生教授の「通元鍼法」。
観察指標=①卵巣機能、②子宮内膜肥厚度、③排卵(超音波検査)、④妊娠。
結果=排卵率は、西医群55.3%(159周期中88周期)・鍼群75.5%(159周期中120周期)。妊娠成功率は、西医群30.2%(16例)・鍼群60.4%(32例)。治療後、①は鍼群がFSH・LH・E2で西医群より有意に高く、②も同様であった。
☆末期癌患者のQOLに対する足三里穴への温灸治療効果
天津中医薬大学・周?らは、末期癌患者60例で、常軌内科対症治療と温灸併用治療の効果を比較(中国鍼灸、19年02期)。
対象=同大付属病院腫瘍科の入院患者60例(男35例・女25例)、平均年齢65歳(30~83歳)。内訳は、肺癌19例・消化器系癌26例・婦人科系癌11例・その他の癌4例、ステージⅢ16例・ステージⅣ44例。これをランダムに常軌群・温灸群各30例に分けた。
治療法=両群とも、常軌内科対症治療(中薬を含む抗癌剤治療、貧血患者にはエリスロポエチン[EPO]治療)を12日間。
<温灸治療>①取穴―左右の足三里。
②操作―箱灸器に燃えた20×40mmの棒灸を入れ、左右の足三里穴を温め、30分後に外す。1日1回、12日間治療。
観察指標=①免疫機能、②ヘモグロビンレベル、③カルノフスキーの一般全身状態スコア(KPS)、④中医主要9症状(脱力感・不眠・息切れ・食欲減少・自然発汗・めまい・顔色不良・心悸・腰膝だるい)の総合スコア?。これらを、治療前・治療12日後に測定・評価。
結果=①②は、両群ともに治療前後に統計学的有意差なし。③は、常軌群では有意差なし、温灸群では有意差あり。④は、常軌群では有意差なし、温灸群では7症状(脱力感・息切れ・食欲減少・めまい・顔色不良・心悸・腰膝だるい)の改善が常軌群と比較し有意差あり。
結論=温灸治療は、末期がん患者の臨床症状の改善に有効な方法である。
【連載執筆者】
谷田伸治(たにた・のぶはる)
医療ジャーナリスト、中医学ウォッチャー
鍼灸師
早稲田鍼灸専門学校(現人間総合科学大学鍼灸医療専門学校)を卒業後、株式会社緑書房に入社し、『東洋医学』編集部で勤務。その後、フリージャーナリストとなり、『マニピュレーション』(手技療法国際情報誌、エンタプライズ社)や『JAMA(米国医師会雑誌)日本版』(毎日新聞社)などの編集に関わる。