鍼灸柔整新聞

【無料レポート】助産師が語る! 産後の心と体とその環境 女性鍼灸師フォーラム第64回学習会 

見た目以上にデリケートな産後は鍼灸師にできることがたくさんある 

女性鍼灸師フォーラムの第64回学習会『助産師が語る! 産後の心と体とその環境』が1月23日、オンラインで開催された。

井上律子氏

 井上律子氏(助産師・看護師・鍼灸師)は、「妊娠期に配慮が必要なことは周知されているが、産後は見た目以上にデリケートで注意が必要」と話した。医学的に産後は「産褥」、分娩後2時間からの6~8週間を「産褥期」と呼ぶ。しかし、身体が落ちついてもメンタルヘルスケアの視点からは、出産から1年ほどが産後として大切な期間だと説明した。

 分娩に要する時間は、初産婦で12~15時間、経産婦で5~8時間といわれるが、前駆陣痛による睡眠不足や、直前までの育児などで、すでに疲労した上で臨む場合も見られると語った。その上、平均500ml~800mlの出血や、産道の裂傷、筋骨格への影響が重なり「全治2カ月ほどのケガ」のようなダメージを受けると例えた。さらには体の変化も起こり、分娩後は女性ホルモンの急激な低下による一時的な更年期のような症状や、悪露、乳房の痛みなど多くのストレスがあると解説し、この不安定な状況での子ども中心生活への変化は、心のコンディションに影響しやすいと述べた。

 また、産後の抑うつ感は過半数が経験するといわれるが、2週間ほどで消失する場合が多いと話した。しかし、約10人に1~1.5人は強い抑うつに発展、約1000人に1人は幻覚や妄想など強い精神症状に発展し命を絶つ場合もあると説明し、「メンタル不調は子どもへの虐待にも関わるため、産後だけでなく妊娠中からのケアが重要」と述べた。

 エビデンスのある産後のメンタル不調のリスク因子は、①身近な人のサポートや社会的な支援の不足、②精神疾患の既往、③過去の流産や死産、身内の死など精神に影響するライフイベントがあるが、①は対処できるものだと言及。鍼灸師としては、治療院に訪れた人の、うわの空でぼんやりしていたり、何でもないことで涙ぐんだり、自殺や虐待をほのめかしたり、などの様子に注意を払い、「何かありましたか?」など声をかけ、心配していることを伝えるようアドバイスした。また、産婦人科診療ガイドラインでも「妊娠中における精神障害ハイリスク妊産婦の抽出法とその対応は?」の項目で精神疾患の有無や発症リスクの評価の重要性が指摘され、疑わしい場合は精神科医の紹介や行政窓口への情報提供が勧められていると報告した。

 行政では、精神科医や小児科医の指示があれば医療保険を適応して訪問看護を受けられるほか、家庭訪問や電話相談、就労支援、家事支援サービスの紹介など産後を支える様々なサポートがあると紹介し、「精神的に問題がなくとも、妊娠していない時より体調が良いはずはないため、積極的に利用できるサービスを探し利用してほしい」と述べた。

鍼灸での産後ケアをエビデンス構築でもっとスタンダードに

 最後に、産後の行政サービスに鍼灸が含まれない現状を受け、辻内敬子氏(女性鍼灸師フォーラム代表)が「不妊治療から妊娠中も関わることができる鍼灸師は産後の活躍も期待されている。産後どのような愁訴で訪れ、どんな治療を何日行ったかなどのカルテを集め、皆で力を合わせエビデンス構築に取り組みたい」と呼びかけた。

 

 

モバイルバージョンを終了