日本統合医療学会(IMJ)の第26回学術大会が昨年12月17日、18日、オンラインで開催された。テーマは「セルフケアと統合医療-With/Afterコロナの時代に考える」。
死に向き合って始まる「生き直す」という本当の自分探し
柳田邦男氏(ノンフィクション作家)の講演『セルフケアとしての「自己表現の営み」』では、死に向き合う困難に自分がどう立ちまわるかを「生き直す」と表現すると紹介。
ハンセン病や進行がんなど病苦に向き合い、最後に「ありがとう」と感謝の言葉を残し亡くなった人のエピソードや闘病記を挙げ、「外形的に絶望に立たされても精神的に気高く崇高に生きることができる」と話した。そして、「生き直す」道を自分なりに築き直し、歩み、精神的に全うするための、広い視野で統合医療とするならば、心のセルフケアが重要であると説明した。
70年~80年代には、人々の死生観が変化し「闘病記の時代」に入ったと述べた。これまで死は暗く恐ろしく、医学的に敗北を意味するものだったが、終末期ケアが組織的に行われ、生と死を考える場も増え、闘病記も多くなったと語った。書くことは、言葉で表現する行為により、心の混沌を整理できることで、どう生きるかという精神性の世界で理性を新しく築き直すことに繋がると話した。
また傾聴の効果にも触れ、目の前に聞き手がいる空間の中で話すことが孤独・疎外感からの解放を、自分の人生を物語として見直し納得することが自己肯定感をもたらすと述べた。そして自己肯定感が「生き直す」力になり、残された人生を自分なりにどう過ごすかを追求する「真の人生」に繋がると説いた。
続いて『セルフケアと統合医療―セルフケアの意味から考える』のテーマで講演した岡美智代氏(群馬大学大学院保健学研究科)は、その人らしい生活を送るセルフマネジメントのための「EASE (イーズ)プログラム®(自主的な自己涵養促進プログラム)」と「じっくりEASEプログラム」を紹介。「じっくりEASEプログラム」では「聞き手」に自身のことを語ってもらい、冊子にまとめる自分史づくりにより、「自分はこれで良い」という穏やかな自信と、周囲に対する信頼を持てるように支援していると話した。
With/Afterコロナの時代のセルフケアと統合医療
齋藤繁氏(群馬大学医学部附属病院病院長)は『感染症に負けない体づくりのための健康登山塾』のテーマで、新型コロナウイルス感染症には様々な対症療法やワクチンで対応しているが、一番大切なのは日頃の生活習慣病対策と免疫力と述べた。
歳とともに健康に関心が高まるが、具体的に何をすべきか分からない人も多い中、豊かな自然や温泉がある群馬には健康増進のために多くの人が訪れていると報告。自身の経験もふまえ中高年の登山において、心配されるのが遭難で、転倒などによる傷害や既往症の悪化、認知障害による道迷いなどを挙げた。
また「バテる」とは、心拍数が許容範囲を超え高い状態が続いた場合や呼吸筋が疲れ大きな呼吸がつらい状態だと解説。いかに効率よく呼吸するかが楽に登山するポイントとし、肺の下まで空気を入れることを意識した腹式呼吸の練習などをアドバイスした。登山後すぐの入浴による脱水、坂道での急な心拍数の上昇などにも注意を促した。
コロナ禍を受けた、今後の医療体制の変化やデジタルトランスフォーメーションなどについての伊藤壽記氏(IMJ理事長)の講演や、住み慣れた地域で患者が最後まで自分らしく生きるために病院と診療所、介護事業所が連携する安中市医師会独自のシステム「情熱ライン」などについての須藤英仁氏(群馬県医師会会長/須藤病院理事長)の講演も行われた。