全日本鍼灸学会の中国四国支部学術集会が10月30日、香川県県民ホール(香川県高松市)とオンラインのハイブリットで開催された。
『鍼灸のアップデート』を大会テーマに、今後の鍼灸教育や鍼灸治療とメンタルヘルスの関係などの発表がなされた。
鍼灸師界、教育と意識の変革を
同会会長の若山育郎氏は『日本鍼灸アップデート』と題して、これからの日本鍼灸が向かう方向を語った。
教育においては、大講堂での一斉講義やメディア教材による画一的な教育といった、多対一教育が特徴的な中国医学と比べて、徒弟制度が源流にあり、小規模で個別的な日本鍼灸は非常に対照的であるとした。
そうした中で、日本の教育現場で使用される教科書でも中国医学が多く採用されており、日本鍼灸の技術や精神を拡充するためにも、現在策定中の学校機関のモデルコアカリキュラムのような、より体系的な取り組みが必要だと提起した。
また、同学会には現在、2300人の会員が所属しているが、これは全鍼灸師11万人の2%でしかなく、全医師32万人の55%が所属する日本医師会と比べて著しく低いと懸念した。
一方、日本東洋医学会などの伝統医学・東洋医学に関する学会が複数あり、医師の入会者も増加しているといい、東西両面から診断できる医師が増えつつあるにもかかわらず、鍼灸の存在感は非常に薄いと現状に危機感を表した。
この状況を改善するには鍼灸師自身と鍼灸師界全体のアップデートが必要で、その上で鍼灸師と医師がお互いをよく理解し、それぞれの役割を果たすチーム医療が重要だと説明した。
エビデンスからみるメンタルヘルスと鍼灸
東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科助教の松浦悠人氏はメンタルヘルス鍼灸について、最新のエビデンスを元に解説した。
令和3年10月から令和4年2月にかけて行なった鍼灸院来院患者303名(男性103/女性202)に対する調査では、その多くが気分症状はあるが精神科・心療内科では診断がつかない状態で、全体の30%近くが病歴10年以上であったと説明した。
続いて、うつ病に対する鍼灸治療効果について、対象者19名、期間9カ月の調査を 解説した。初めの3カ月は標準治療のみ、次の3カ月は鍼治療(週1回)を上乗せ、最後の3カ月はフォローアップとしたところ、鍼治療期間は有意に精神症状や身体症状が改善されたうえ、フォローアップ期間でも2カ月程度の持続が認められたと報告した。
さらに鍼治療の有効性に関する29件ものシステマティックレビューを紹介。鍼治療とシャム鍼(プラセボ)の比較では、鍼治療が有意に症状を軽減、抗うつ薬+鍼治療と抗うつ薬単独の比較では、こちらも鍼治療を加えた方が有意に改善したとした。治療は多数・頻回が重症度の軽減に効果を現し、おおむね8回程度が目安であるとした。
今後はエビデンスの質を高め、より一般化された研究が増える必要があると説明した。