全日本鍼灸マッサージ師会(全鍼師会)の主催で『令和4年度 スポーツ鍼灸マッサージ指導者育成講習会』が8月27日、28日の二日間にわたり開催された。
東京五輪での活動から見えてきた現状
昨年開催された東京五輪に鍼・あん摩マッサージ指圧ボランティアとして参加した朝日山一男氏、松浦浩市氏、成田卓志氏、今泉繭子氏の4人が登壇し、現場での活動を振り返った。
最初に壇上に上がった朝日山氏は、冒頭、正式に鍼灸師がポリクリニック(選手村総合診療所)に派遣されるのは今大会が初めてと紹介。ポリクリニックでは理学療法の一環として鍼治療(ドライニードルを使用)・マッサージ治療を行なったと報告した。鍼灸・マッサージ師に対して4倍程度の理学療法士が派遣されていたと述べ、施術についてはマッサージの希望が多く、鍼を希望する選手らは割合として少なかったという。また、今大会は多職種連携によるアスリートケアに初めて取り組んだ大会であり、電子カルテによる患者情報の共有や、分業的な体制により、鍼灸師・医師・理学療法士のそれぞれがより専門的な分野で取り組むことができたと報告した。
続く松浦氏は多くの選手を施術するにあたり、意外なほど「日本の鍼治療」がアスリートに認知されていることを知ると同時に、十分なニーズがあると実感し、今後の五輪や世界大会での活動へ向けての自信に繋がったと述べた。
成田氏はコロナ禍による緊急事態宣言下での大会開催ついて言及。大会直前のPCR検査陰性証明はもちろん、大会中も毎日PCR検査を行なったという。その上で、施術台の清拭・消毒、ゴーグル、マスク、フェイスシールド、使い捨て手袋の着用のほか、選手らとの会話も最低限にするなど、徹底的な感染対策が取られていたと語った。
陸連から派遣された今泉氏は非常に貴重な体験ができたとして、2025年開催の世界陸上東京大会への確かな土台になったと振り返った。
最後に朝日山氏は、今大会を通して多職種連携により他業者と話し合う機会が多くあり、非常に有意義な経験を積むことができたと総括した。一方で、厳しい選考により多くの落選者を出したにもかかわらず、現場における鍼灸師・マッサージ師の不足が顕著であったとして、五輪運営側にフィードバックする必要があると訴えた。
解剖学から見た評価とそれを基にした治療
宝塚歌劇団の施術スタッフとしても活躍する高田麻佑子氏(履正社国際医療スポーツ専門学校・専任教員)は『評価から施術へ:基礎評価から治療の考え方』と題して、評価の重要性と、姿勢やアライメントの解剖学的な評価に基づいた治療の詳細を解説した。高田氏は会場参加者を壇上に上げ、屈曲型腰痛・伸展型腰痛・回旋型腰痛の評価と施術を行うと、続けて会場参加者同士で評価と施術を実践する実技指導も行った。
このほか、陸上100㍍元日本記録保持者の伊東浩司氏による自身の競技人生に基づいたトレーニング論や、アスレティックトレーナーの岩本弘明氏による安全で効果的なアスリートリハビリテーションなど、多彩な講演で好評に閉幕した。