経絡とFascia
鍼灸学会Tokyo(山田勝弘会長)の 令和4年度第2回学術研修会が7月3日、オンラインで開催された。
『エコーと局所解剖・生理学から見た筋硬結とFascia』と題して、須田万勢氏(諏訪中央病院リウマチ・膠原病内科医長)が講演した。須田氏は、筋膜性疼痛に対し、エコーを用いてFascia(ファシア:膜・筋膜)に生理食塩水を注射して元の状態に復元させて痛みやこり等の症状を改善する、ハイドロリリース(筋膜リリース)を臨床で実践している。
経絡とファシアを比較して、▽経絡は「気」、ファシアは「電気」の通り道、▽経絡は五臓六腑と四肢の「連絡網」、ファシアは臓器を繋ぐ「結合組織」、▽経絡は当たると「響く」感じがする、ファシアはリリース中に「効く」感じがする、▽経絡は決められた通路を通る「線」、ファシアは膜によって隔てられた層がある「面」と解説。
鍼灸は直接、神経を刺鍼していないのに、線(面)状に響き感が得られ、症状が改善するのは、生理学的に情報伝達の機能を持った一本の線維としての見えない神経があるとした。ファシア内のC繊維は刺激に対する閾値が高く、筋肉が深くて重い痛みを感じるのに対し、ファシアは鋭い痛みを感じると考えられると説いた。刺鍼は、ファシア内の刺激受容器にアクセスする行為と分析した。
超音波エラストグラフィーの可能性
鍼灸師の林健太朗氏(東京大学医学部附属病院リハビリテーション部鍼灸部門)は、主に肩こり自覚者を対象としたエコーによる超音波エラストグラフィーの可能性と、鍼灸の効果について講演した。
あはき師の臨床・教育現場の重要な課題として、触診による筋肉の硬さの判定は施術者の主観によって一致せず、押し込み式組織硬度計では筋肉のみの硬度を示すことができないことを挙げた。それを踏まえて、超音波画像診断装置により組織の硬さを評価する「超音波エラストグラフィー」による評価を報告した。異なる3姿勢で計測を実施した結果、測定部位が直線となる姿勢での測定はStrain Ratio(SR歪み比)の信頼性が向上するとして、触診は筋肉以外の組織の影響も受けている可能性を示した。
また、肩こりの自覚症状の有無や程度は、筋肉の硬さだけでは説明しきれないとした。自覚症状と関連する組織は何か、刺鍼による肩こりの自覚症状の軽減はどのような組織への影響に由来するのかを明らかにすれば、触診による評価、刺入深度選択、刺鍼目標となる組織の選択の根拠の一つとなると述べた。