第10回予防鍼灸研究会が6月26日、オンラインで開催された。テーマは『免疫力と健康』。
灸の作用、血清学的検査でも証明
特別講演『灸治療の実際と免疫系への作用』では、三村直巳氏(東京医療専門学校講師)が、原料のモグサや灸術といった基礎知識から症例報告・研究までを発表した。
三村氏は、越石鍼灸院(東京都練馬区)の院長である母の越石まつ江氏が、師に教わり、独自に改良を加えた紫雲膏灸を用い臨床に当たっている。紫雲膏灸とは、紫雲膏を介在させてすえる灸法で、形状の異なる多壮灸と糸状灸の2種類からなる。この紫雲膏灸を用いた症例として、喘息と伝染性単核球症の施術記録を報告。自覚症状に加え、血清学的検査データからも、白血球や肝機能の数値にはっきりと改善が見られたことを示した。
続いて、灸の免疫系への作用に着目。基礎研究により、関節炎を誘発させたマウスと正常なマウスに灸をすえ、発症率、関節炎の程度、血液と組織を比較。結果から、灸が関節炎の発症抑制や症状の改善に効果があると証明した。
また、最近の話題として、温度感受性のTRP(トリップ)チャネルがさまざまな組織に発現し、施灸による温熱刺激を感受すると、自律神経、ホルモン、免疫システムにさまざまな影響を与える可能性を解説した。肥満細胞の脱顆粒とTRPV2チャネルにもふれ、53度の熱刺激や機械刺激により肥満細胞は脱顆粒し、アデノシンやヒスタミンなどを放出するが、特にアデノシンは、感覚神経細胞上のレセプターに作用し鎮痛効果を示すとの報告があると説明。感覚神経の刺激は脊髄などに機能変化を起こすとされ、中枢感作の改善も期待できるため、灸治療や針治療を繰り返し受けることは変化のきっかけになる可能性があると述べた。
最後に松尾芭蕉の「奥の細道」の序章にある「三里に灸すゆるより」という節を引用し「芭蕉も足三里に灸をすえ、痛みをとりながら長旅を全うしたのだと思います」と締めくくった。
コロナ後遺症患者の共通点
金子武良氏(金子指圧治療院)の実技供覧『コロナ後遺症に対するソフト指圧のアプローチ』では、自身が3名のコロナ後遺症患者に施術を行った経験を「患者らは共通して身体全体が冷蔵庫のように冷たく、特に悪い箇所は冷凍庫のように冷たく、皮膚の表面は黒ずんでいた」と話した。2日間に分けた施術により体温を常温に、肌色も元に戻すことができたが、深部の冷えが元に戻るには数年かかる見込みとのこと。
施術を体験した患者役は「体が熱くなり、反応を感じた。体で免疫にも良い影響があるだろうと感じた」と感想を述べた。参加者からも「着衣のシルエットが明らかに変わり、体が立体的になった」などの声が上がった。
その後のディスカッションは、参加者の臨床や研究に基づく興味深い質疑応答が続いた。「熱がキーワードになると感じた」「松尾芭蕉のように、養生法のひとつとしてお灸を一般の人にもっと知ってほしい」などと講義を振り返り、会は幕を閉じた。