鍼灸柔整新聞

『ちょっと、おじゃまします』Baseball5を広め、野球人口を増やしたい

 大学では体育の先生を目指していたという若松健太先生。世界のトップアスリートをメダルに導いた鍼灸師でスポーツトレーナーの白石宏氏の存在を知ったことをきっかけに、卒後は鍼灸の専門学校に進学しました。鍼灸師、柔整師の資格を取得し、治療家として約10年間経験を積み、湧いてきたのは「データを集積して治療に貢献したい」という思い。30歳を目前に日本体育大学大学院に進学し、研究者としての道を歩み始めました。

 そんな中「勉強のために」と応募した東北楽天ゴールデンイーグルス臨時トレーナーに選ばれるという転機が訪れます。実は若松先生は大の野球好き。子どものころから野球を続け、同郷から時を同じくして上京した4名の仲間とともに2007年に「ジャンクベースボールクラブ」という草野球チームを結成。研究も仕事もプライべートも野球を楽しむことが根底にある生活を送っていたそう。トレーナーは3カ月限定でしたが、信頼を築き、選手や球団関係の友人もたくさんできました。

 その後も、野球関連組織などが主催した野球を啓蒙するイベントなどを手伝ううちに、野球人口の減少に危機感を強めていったという若松先生。2018年には野球の啓蒙を視野に入れた、軟式草野球クラブと運動教室の運営に取り組むため、チームメイトとともに一般社団法人ジャンク野球団を立ち上げました。

新しいインクルーシブスポーツ、Baseball5を教育や福祉の現場へ

 現在、野球団のもう一つの大きな柱となっているBaseball5(ベースボールファイブ)に出会ったのはその少し後。女子野球日本代表で世界大会でもMVPなどを受賞した・六角彩子選手が主導したイベントでのことでした。

 男性3名、女性2名の合計5名で18メートル四方のコートに入り、バットの代わりに手でボールを打つという簡易的な野球のようなBaseball5は、コートの狭さゆえのスピード感やコミュ二ケーションの活発さで、男女、年齢の壁なく盛り上がり「これこそ野球の普及につながるスポーツだ」と確信したそう。

 さらに2021年、東京オリ・パラ関連イベント内でのBaseball5のイベントの手伝いに、野球団をあげて参加。コートの中に入れば、自然と他人同士でも仲間意識が生まれゲームを楽み始める様子を目の当たりにし、Baseball5には人を夢中にさせる魅力があると実感したといいます。

打撃の様子。ボールのサイズや硬さを変えれば子供やお年寄りにも親しみやすくなる

 野球団でもBaseball5のチーム「JUNK5」を結成し、スキルを磨きながら、Baseball5を広める活動にも取り組み始めました。現在准教授として勤務している桜美林大学では、日本初のBaseball5の部活動を立ち上げ、体育のカリキュラムにも組み込むことが決定。様々な会場でイベントも開催する中で、「体育教育の現場において、男女差や天候、道具の必要性から、取り入れられる競技が少ないという問題点が解決できる手ごたえを感じている」と話します。

 また、特別支援学校での体験イベントで、知的障害を抱える人でチームを作りゲームをした際には、「仲間と交流を図りチームのため協力する姿に、保護者や教諭とともに喜び合うことができた」と感激を口にする若松先生。力いっぱい楽しめるアーバンスポーツであり、教育や福祉の場でいろんな人が参加できるインクルーシブスポーツであるという、Baseball5を通した活動のやりがいを熱をこめて語りました。

 野球の普及のため、体育教育を良くするためにと、野球団や桜美林大学の学生も巻き込んでのBaseball5の普及活動は、スポーツ選手からも賛同をうけコラボイベントも開催するようになっています。

 他にも、「イベントに足を運んでもらう機会がないなら、見てもらうのが早い」と、野球団の活動やBaseball5のルールをYouTubeで発信。教育に取り入れるにはエビデンスに裏付けられた信頼が重要だと考え、ベールボール型授業としての導入を視野に研究をし、学会発表を重ねています。

YouTubeの動画をはじめネット発信はコロナ禍の頃から強化した

オンラインでの大学の授業もここから発信していた。「好評だった!」とにっこり

国内外での学会発表はかねてより。医療や教育関連の学会で様々な発表を続けている

「第2回 WBSC Baseball5ワールドカップ」では侍ジャパン監督として出場!

 普及に奔走する一方、チーム「JUNK5」は実力をめきめきとあげ、「第1回 Baseball5日本選手権」では初代王者に。香港で開催された「第2回WBSC Baseball5 ワールドカップ」には、若松先生は監督として、選手として選ばれたチームメイト4名とともに出場し、世界2位に輝きました。

 そんな若松先生は、桜美林大学の教員として、チームの監督として活躍する中で、鍼灸師や柔整師としての経験や学びが生きているとも話します。大学の授業においては、「トレーナーになりたい」と話す学生へのアドバイスや、身体の知識を組み込んだ独自の講義ができ、監督やコーチとしては、トレーナー・PT・ATとコミュニケーションやフィードバックが円滑に行えていると感じています。また、「幅広い年代の様々な状況な患者さんと接した経験はかけがえがないもの」とも。挨拶、傾聴、伝えること……と人として大切なものが身についたと語りました。

 若松先生が、「根本は野球人口を増やすための普及競技」と野球が好きだという思いとともに、教育を良くできる可能性を見出しているBaseball5の詳細はジャンク野球団へ。

「侍ジャパンチャレンジカップ 第1回 Baseball5日本選手権」

アジアカップ2024、ワールドカップ2024など世界の舞台でメダルを獲得

若松 健太先生

平成13年北海道鍼灸専門学校卒、同年はり師・きゅう師、平成19年柔道整復師免許取得

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