昨年12月4日、日本東方医学会(長瀬眞彦会頭)の第40回学術大会が『心あたたかで人間的な東方医学』をメインテーマに、東京都千代田区の御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにて開催された。会場には多くの鍼灸師、医師が来場し、特に多職種連携について闊達な議論がなされた。
あたたかく人間的な医療へ
長瀬氏は会頭講演で大会メインテーマである『心あたたかで人間的な東方医学』について語った。
「心あたたか」は、作家の遠藤周作氏が昭和57年に入院環境の改善を訴え、取り組んだ「心あたたかな医療」キャンペーンから引用したと紹介。
西洋医学では「生」と「死」を対比させ、死を一方的に避けるべきものとしているが、東洋医学では、生と死は対比するものではなく、シームレスにつながっているものだと説明した。
死生観のほかにも、患者や疾患へのスタンスにも大きな違いがあり、西洋医学では疾患に対して画一的な方法をもって治癒を目指すのに対して、東洋医学では症状の大小はもちろん、患者の体調やその日の天気まで考慮して治療にあたる「同病異治」の精神を挙げた。
また、ランダム化比較試験を基にしたガイドラインによる治療は十分に効果的であるものの、国際標準が全ての患者に当てはまるものではないと指摘。地域差や個人差を含めて寄り添う「心あたたかな医療」を提供することができれば受ける側も差し出す側もその医療を「人間的」だと感じることができると解説した。
シンポジウム白熱、多職種連携の難しさ
シンポジウムでは、鍼灸師の竹下有氏(清明院院長)、医師の増田卓也氏(三井記念病院総合内科)らが『医師・鍼灸師連携の発展と課題』をテーマにそれぞれ発表した。
竹下氏は東洋医学の特長として、主訴以外に波及する施術の副効果、未病を治す予防的側面、土地・季節・個人に合わせて施術を行なう三因制宜などを挙げ、形態的、物理的異常の治癒ばかりを追うのではなく、総体的、機能的なアンバランスの調整に取り組むことこそ東洋医学の本質と説明。独自の治癒理論と多様な方法を持つことから、西洋医学では名前のつかない症状にも対応できるのが東洋医学の強みと語った。
その一方で、他の医療職種からの無理解は根強くあり、この打開には治療家自身の技術向上や症例集積・報告など、地道な活動しかないとした。
増田氏は自身が勤務する病院で取り組む鍼灸師との医療連携について解説。来院患者の中には投薬などの対応を行なっても回復に向かわない人も多く、そうした症状をどうにかコントロールできないかと東洋医学の研究に取り組み始めたと語った。
また、三井記念病院では鍼灸院と相互に患者を紹介できる体制を試験運用中であるとして、西洋医学では治療困難と行き詰まった睡眠障害やリウマチ痛などが紹介先鍼灸院での治療により改善したケースも多くあると紹介。良い医療連携を目指すためにも医師はもちろん、患者にも向けた鍼灸の啓蒙活動が重要であるとした。
シンポジウムの後半では大会参加者も交えた討論会が開かれ、登壇者もたびたび触れた鍼灸師・医師が置かれている多職種連携の現状について
「多くの医師が東洋医学の知識にうとい、啓蒙活動や医学部教育の充実が急務」
「学校卒業後、知識・技術のアップデートをしない鍼灸師が多く、手放しで信頼することが難しい」
など、多くの意見が忌憚なく飛び交った。