9月1日より新たな行政機関として、「デジタル庁」が設置されました。目的は国や地方行政のデジタル化の推進を図ること。医療分野の部分では、古くからの友人も駆り出されているようで、旧態依然として一向に進まない医療のICT化に風穴を開けてくれるのではないかと期待をしています。
電子カルテについては普及しつつあるといえます。200床以上の一般病院での普及率は約72%(厚労省調べ、2017年時点)です。私のクリニックでも電子カルテを使用しています。が、一般診療所での普及率は40%とやや低迷しており、開業医の超保守的な側面が依然として影響しているかのように思えます。
鍼灸院や接骨院がそういう医療機関と連携することが重要だと感じ、動き始めたのが10年前。最初は双方の共通言語がないので、通訳の役割を果たすようなテンプレート用紙を検討していました。そうこうしているうちに、そもそも鍼灸師には「カルテを書く習慣がない」「書いたとしても非常に簡素なメモ程度である」ということが分かり、それでは「書きたくなるようなカルテを作ろう」と事業化したのが電子カルテ『みんなのカルテ』でした。私がちょうど研修医だった頃に富山大学付属病院の電子カルテシステムが刷新されて、新しいシステムが稼働したばかりでした。研修医として毎日使用する現場の声を伝える役割として、医療情報部の委員会に呼ばれて常駐のエンジニアと改修案について話をする機会もあった経験から、どうすれば全員が戸惑うことなく利用できるのか考えると、UX(インターフェース)をユーザー中心設計にすることが最優先となりました。
『みんなのカルテ』はかなりこだわってUXを作り込みましたが、そもそもカルテを書く習慣がないところで導入されるほどの力は生み出すことができませんでした。これは、一般診療所での電子カルテの普及が遅れているのと同じ状況だったと思っています。
セキュリティの脆弱性についての心配も指摘があると思います。コロナ禍の前にフィンランドのGene Bankを訪れた時には、あまりに日本の状況と異なることにびっくりしました。フィンランドは人口500万人の小さな国ですが、ほとんどの人が自分の遺伝情報をGeneBankに提供しています。そのビックデータから新たな技術が生まれることを期待してのもの。そして、情報漏洩について尋ねると、「それは起きたら考える」のだそうです。心配するよりも前に進む国民性で、日本はとても真似ができないと感じたものです。
現在も『みんなのカルテ』は稼働しております。デジタル庁の設置を機会に導入を考えていただけると幸いです。
【連載執筆者】
織田 聡(おだ・さとし)
日本統合医療支援センター代表理事、一般社団法人健康情報連携機構代表理事
医師・薬剤師・医学博士
富山医科薬科大学医学部・薬学部を卒業後、富山県立中央病院などで研修。アメリカ・アリゾナ大学統合医療フェローシッププログラムの修了者であり、中和鍼灸専門学校にも在籍(中退)していた。「日本型統合医療」を提唱し、西洋医学と種々の補完医療との連携構築を目指して活動中。